航海タイム

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小説索引

航海タイム――time of sailing

第零章 - 出航の鐘
第一章 - 航海の途中
第二章 - 海が果てるまで(前編)
第二章 - 海が果てるまで(後編)
第三章 - 手にした剣が示すもの
第四章 - 酒宴航路(前編)
第四章 - 酒宴航路(後編)
第五章 - 別つ海(前編)
第五章 - 別つ海(後編)
第六章 - 憂いの風を抜けて(前編)
第六章 - 憂いの風を抜けて(後編)
第七章 - Like a child, on the little sheep(前編)
第七章 - Like a child, on the little sheep(中編)
第七章 - Like a child, on the little sheep(後編)
第八章 - 彼方の海で――(前編)
第八章 - 彼方の海で――(後編)
第九章 - そして船はゆく
第十章 - 振り返りし景色
第十一章 - Moon Chaser ――月の追跡者――(前編)
第十一章 - Moon Chaser ――月の追跡者――(後編)
第十二章 - 異なる闇に、月は沈み(前編)
第十二章 - 異なる闇に、月は沈み(後編)
第十三章 - 旅の理由
第十四章 - 空はかようにして美しく(前編)
第十四章 - 空はかようにして美しく(後編)
第十五章 - 時は流れ出した(前編)
第十五章 - 時は流れ出した(後編)
第十六章 - 求めし夢の肖像
第十七章 - 憧憬ふたつ(前編)
第十七章 - 憧憬ふたつ(後編)
第十八章 - 血と雨と(前編)
第十八章 - 血と雨と(中編)
第十八章 - 血と雨と(後編)
第十九章 - 光(前編)
第十九章 - 光(後編)
第二十章 - ONE HAPPY DAY
第二十一章 - 失くした地図を探しに
第二十二章 - 永い夢(前編)
第二十二章 - 永い夢(後編)
第二十三章 - 違う風が吹く(前編)
第二十三章 - 違う風が吹く(後編)

思えば結構書いたもんです。




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  1. 2005/08/30(火) 02:51:25|
  2. 小説索引
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0

登場人物紹介【3】

koukai_Rotthi
ロッティーナ
 ”フォスベリー”の副官を務める女性。元々イングランド海軍の出身であり、剣の腕は船団随一だが、怒りっぽいのが珠に傷。極度の綺麗好きでもある。

koukai_Gurafu
グラフコス
 かつて盗賊団”ギリシャ・ムーンズ”の一員であった男。今はアイの船”シャルトリューズ”の一船員となっている。口調は粗雑だが根は乱暴者ではないようだ。

koukai_Zeruda
ゼルダ
 涼やかで端正な顔立ちをした、ヴェネツィア海軍の将校。かつてマルセイユを訪れた際にフェレット達を見かけ、彼らの船団に興味を抱く。

koukai_Clyde
クライド
 かおるから”HIGE”の異名で呼ばれる、左こめかみの辺りにある大きな火傷、そして雑草の如くな顎鬚が印象的な男。かおるとはフェレット達よりも以前からの付き合いであるようだが?



  1. 2005/08/24(水) 02:41:33|
  2. 登場人物紹介
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2

第十六章 求めし夢の肖像

1

 キャラック船”バブーシュカ”の船内は、何時にも増して活気に包まれていた。
 船員達は皆、数年間もこの船の上で一緒に過ごしており、互いのことを知り尽くした家族のような存在達ばかり。
 そしてこの度、三年もの間恋人同士として暮らしてきた一組の男女が、結ばれることとなった。
 新婦となる予定の女性、エジェリーは既にその胎内に新たな命を抱えており、今回の航海には同行せずに町に残っている。
 そのせいだろうか、青年フロランの視線はことあるごとに一定の方向を向き、その度何かを思い出してはぐにゃりと破顔するのであった。
 ”バブーシュカ”は今、エメラルド色に輝くアフリカの海を進んでいる。
「おい、お前ちゃんと前見てなよ。ここで座礁しちまったら元も子も無いんだから」
「あ、すんません。ディヴィ船長」
 解れば良いよ、とディヴィは笑った。
 船長を務める青年もまた、フロランとエジェリーの関係はよく知っている。
 元々エジェリーはフランス、ボルドーの町に住む一般の町民であった。
 北海へと向かう際にたまたまボルドーに立ち寄って、フロランが一目惚れをしたところから話は始まった。
 そして彼女とフロランの仲を取り持ったのはこのディヴィであったのだ。
「しかし、フロランもついに結婚か。俺も考えさせられるな」
「考えさせられるって……」
「俺ももう若くないからな」
「そんな、船長ってまだ二十六歳でしょ。船乗りとしちゃむしろこれからですよ。ヴァスコ・ダ・ガマもクリストバル・コロンも皆オッサンばかりなんッスから」
「また凄いところと比べてくれたな。それにヴァスコ・ダ・ガマはまだ三十路前って話だぞ?」
 ディヴィは、はははと声を立てて笑った。
 その笑いが他の船員達にも伝染り、彼らも皆楽しそうに笑っている。
「ところで、名前は決めたのかあ? 子供の」
 甲板の反対側で操船作業に当たっている船員が、大きな声で訪ねて来た。
「ああー! 当然だよ!」
 フロランはにんまりと笑い、
「男だったらユーグ、女の子だったらクラリスにしようって、もう一年も前から決めてあんだ!」
笑い混じりの叫び声で返した。
「俺達も覚えとかないとな。女の子だったらエジェリーと親子二代で、うちの船の看板娘になることが決定してるんだから」
 ディヴィが背後からそうこっそりと声を挟み入れた。
「男だったら、どんな風に育てて欲しいですか?」
 振り返ってフロランが訊ねると、ディヴィは顎に手をあてて考えた。
「お前以上の剣術家に……と言いたい所だが、海が好きな人間に育てば、俺からは何の文句も無いよ。……と、それよりそろそろだな」
 夜を迎えて辺りは一気に冷え込んできたものの、この船上だけは相変わらず、ほのぼのとして暖かい空気の中にあった。
 今、船が見据えている先にはアフリカ大陸の岸がある。
 アフリカの西岸に位置する町サンジョルジュで受けた依頼を果たすべく、これからこの辺りで上陸し、”青い瞳の獣”を探索する予定となっている。
「思ったより遅い時間になってしまったな……。この辺りは人が住んでいなさそうだし、下手な所で野宿するのは危険だろう。今日は船上で夜を明かし、明日早朝から出発するとしよう」
「イエッサー!」
 ディヴィの声に、船員四十六名の声が重なって返った。
「で……フロラン。お前には今夜一晩、たっぷりと話を聞かせてもらうからな」
 急にひそひそ声になって話しかける船長を見て、フロランは苦笑する。
「またですか。この航海の間、もうずっと聞いている癖に……」
「お前だって本当は話したがってる癖によく言うな。良いか、幸せってのはな、一隻の船で共有するものなんだよ」
「それは確かにッスね。船長、相変わらず良いことを言う」
「だろ? だったら早速準備をするぞ」
「準備?」
「宴会の準備以外に何がある?」
 そう言うと、船長自ら船倉のほうへと駆けて行く。
 さらに数人の船員が付いて行って、たくさんの酒瓶を持って帰って来た。
 ”バブーシュカ”の船員達は皆、どっかと甲板に座り込み、それぞれに酒を飲み始めた。
「大した肴が無え分、お前の話で酒を旨くしてくれよ。フロラン」
「一生にいっぺんしかねえ出来事なんだ。何度でもてめえののろけ話に付き合ってやるから、聞かせろ」
 ばらばらに座っていたかと思いきや、違う。
 何時の間にか、船員達はフロランを囲むようにして座っていた。
「俺のことも船長じゃなく、ただの一水夫と思って話してくれよ。ここで下手に威張ったら、あとでエジェリーに何を言われるかわからないからな」
「ディヴィ船長! そんな……」
「いいから」
 ディヴィはワイングラスをフロランに渡し、そこにワインを注いだ。
「……船長」
「ん?」
 ディヴィは返事をした後、フロランの顔を見て驚いた。
「どうしたお前、もう酔っ払ってるのか?」
 たった数秒前までそんな素振りも無かったと言うのに、フロランはその瞳を真っ赤に腫らしていた。
 ぐすり、ぐすりと言う音が聞こえて来、ワイングラスを持つ手も覚束無い。
「俺、本当に幸せです。元々は何の能力もない、取り柄と言ったら喧嘩が強いくらいのしょうもねえ人間だったのに……。あなたに出会ってこの船に乗って、それから全部が変わりました」
「何、世話になってるのはこっちもだろ。御互い様だよ」
「エジェリーも、船長には本当に感謝してるって言ってました。……ねぇ、船長」
「ん」
 照れているのか、ディヴィの返事はぶっきらぼうだった。
「これからもこんな風に、幸せが続いていきますよね。絶対」
「この船があって俺達が乗ってる限り、不幸になる理由なんか一つも無いよ」
 ディヴィの優しい声を受けると、フロランは一気にワインを飲み干した。
 涙が詰まって堰き込み、その後またワインを催促する。

 やがて海は完全に暗闇によって支配され、そこに響くのはただ小波の音だけとなった。
 フロランは凄まじい勢いで酒を飲みまくっているかと思いきや、あっと言う間に限界を越してしまい。
 波の音を枕にして、甲板で心地よい眠りを貪っていた。
 夢の中でも、浮かぶのは大切な人間の姿。
 彼女の胎内できっと安らかに眠っているだろう、まだ見ぬ子供の姿。
 生まれてきた子は女の子で、エジェリーに似てとても聡明な子に育って。
 年の差はあるけれど、ディヴィ船長と結婚して、”バブーシュカ”の面々と皆で幸せに暮らしている――そんな夢を見ていた。
 甘い甘い夢の光景を引き裂いたのは、エメラルドと黒色の空に挟まれた現実の光景。
 目を醒まさせたのは、響き渡る怒号。
「っ何……?」
 船員の誰かに怒鳴られたのではと思い、フロランは慌てて目を覚ました。
 いや、確かに怒鳴られていた。
「やっと起きたかっ! 死にたくねぇなら、さっさと立ちあがれ! 剣を持て!」
「あ……ラフィ、どうした?」
 口調は荒いが気の良い友人に、フロランは安心しきった声を掛けた。
「海賊だ! 得体の知れねぇ船が一隻、こっちに向かって発砲して来てる!」
「何だって!」
 一言浴びただけで、酔いはすっかり吹き飛んでしまった。
 いや、そう思っても体は付いて行かない。
 立ちあがろうとするか、よろけてしまう。
「落ち付け、フロラン」
 彼のことを支えたのは船長、ディヴィだ。
「あれはフリゲートだな。哨戒任務に使われる軍船だ」
 彼も酒を飲んでいたにも関わらず、口調はしっかりとしている。
 それもそのはず、彼はこの船一酒が強い。
 彼が酔っ払って我を失ったところを、未だ誰一人として見たことが無いくらいだ。
「妙な色をしてやがる。鉄か何かを船体に張り巡らしてるのか?」
 口調が少し荒いのは酔いのせいではなく、辺りに漂う緊張感のせいだろう。
 迫り来るフリゲート船は、帆も船体も黒色をしている。
 この闇に紛れ込むために塗り替えたのだろうか。
「まともに撃ち合ったらまずいかもしれないな。接近して白兵戦に持ち込むか……」
「白兵……」
 フロランが不安な声を出す。
 剣技には相応の自信を持っているが、今の状態でまともに戦えるかどうか。
「フロラン、お前は船室に行ってるんだ。酔っ払いに居られても迷惑だからな」
「船長、でも酔ってるのは俺だけじゃ……」
「泥酔してるのはお前だけだよ。それにお前には無理をされちゃあ困る理由も有る」
 ディヴィはフロランの肩をぽんと叩いた。
「幸せってのは共有するものなんでしょ? それに俺は、酔っ払ってたってこの船の誰より強いッスよ」
「言ってくれるな」
 ディヴィは困ったような笑みを浮かべた。
「まぁ、白兵戦になるか判らんしな。まだ敵船とは距離があるし、戦いを避けられたらそれに越したことはない」
 そう口にした瞬間、遠方から放たれてきた砲弾が、”バブーシュカ”の船体を砕いた。
 衝撃は凄まじく、転倒しそうになる程船が大きく揺れている。
「鬱陶しいな。やはり遠距離から攻めてくる気か?」
「いや、こちらに近付いて来てます!」
「何?」
 船員の一人が叫び、皆の視線が改めてフリゲートへと向く。
 未だ殆ど視界の先が掴めないような状況であるが、確かにほんの少しづつだがこちらへと近付いてきているようだ。
 こちらの背後には岸があって、後退は出来ない。
 もし撤退するのなら、今直ぐに行動に移す必要があった。
「フリゲートはそこまで船員を必要としない船だ。水夫の数はこちらより少ないだろう」
 酔っていても、ディヴィは冷静に物事を考えられた。
 ”バブーシュカ”の面々もまた、海戦を知らなくはない。
 長き航海の間に、海賊と剣を交える機会は幾らでもあった。
「やれるか? みんな」
 ディヴィが言う。
 彼がそう訊ねた時点で、皆の心積もりは出来ていた。
「たかが一隻くらい、物の数にも入りやせんぜ。さっさと片付けて、また宴会を続けるとしやしょう」
「おお! その通りだぜ!」
 船員達はそれぞれの武器を手にして、気合の声を放った。
 皆、今回の航海の終わった先に、大きな幸せが待っていることを知っている。
 それを目にする前に死んでたまるかと、普段とは気合の入り方が段違いであったのだ。
「フロラン、お前は……」
「俺も戦います。大丈夫、無鉄砲に突っ込んだりはしませんから」
「くれぐれもだぞ」
 迫ってくる一隻のフリゲート。
 こちらが意を決してからは、時間が進むのがやけに早く感じられた。
 フリゲートはそのまま一直線に突っ込んで来、互いに砲弾を放てない程の近距離まで迫ってきた。
「来るぞ! 皆準備をしておけ!」
 敵の船は大きくない。
 思いきり積め込んでも、船員はせいぜいこちらの半数位しか入らないはずだ。
 そう知っていても、ディヴィ達は相手を舐めてかかるような真似はしなかった。
 皆、とにかく生きてその後に待つ幸せな光景を目にしようと、それしか考えていなかったのだ。
「速度が落ちないな、敵の船は」
 フロランが怪訝に思って呟いた。
 白兵戦に持ち込むにしろ、ぎりぎりで速度を落とさなければ、そのまま敵船に突っ込んでしまうことになる。
 上手く接舷する為に体勢を整えておかねば、白兵戦どころではなくなるだろうに。
「……まさか」
 フリゲート船の狙いは、白兵戦に持ち込むこと――それは間違ってはいなかった。
 しかし。
「船長! 敵は!」
 フロランが叫んだ時には、もう敵は避けられない位置にまで迫ってきていた。
「みんな、伏せろッ!」
 ディヴィの怒声。
 それとほぼ同時だった。
 フリゲートに取り付けられた鈍く金色に光る衝角が、”バブーシュカ”を真っ二つに裂いたのは。

2

 流れ出した時は、止まらない。
 巨大なキャラック船は激しい衝撃を浴びて、船体の四分の一が塵のようになり、消し飛んだ。
 体勢を整える時間をくれる訳がなく、フリゲートは”バブーシュカ”に接舷。
 そこから大きな足音を立てて、敵の船員達が乗り込んで来た。
「みんな無事か!」
 船体は今の突撃でぼろぼろにされたものの、中にいる船員達はまだ五体満足のままだ。
 真っ先に立ちあがったディヴィの声に、仲間達は次々と応じた。
「くそ、ふざけた真似しやがって!」
 フロランも立ち上がると、自分の額から何かが垂れてくることに気づいた。
 どうやら転倒した時のショックで、軽く額を切ったらしい。
「なにっ、酔いが覚めて丁度良いぜ!」
 言い聞かせるようにそう叫びながら、フロランは再び、ぎゅうと剣を握った。
 何時の間にか、半壊した”バブーシュカ”に覚えの無い人影が幾つも現れていた。
 その数は見た感じでは、二十かそこら。
 彼らが乗り込んできてから殆ど時間は経っていないし、何処かに隠れたりはしていないだろう。
 敵の姿――皆、無個性な海賊の服装だ。
 何より動きやすさを優先しているのだろう。そしてその手には、奇妙にひん曲がった剣が握られている。
 だが、たった一人だけは違った。
(何だありゃ? 泥でも被ってるかのような……)
 フロランは目を細めて、その男を見やった。
 だがその胡散臭さは確かに海賊のそれに見える。
 遠目でも大きい背丈をしていて、そのせいだろうか、異様な雰囲気を放っているように感じるのは。
「おい、お前が海賊どもの頭領か!」
 フロランは威嚇するかのように、大声を放った。
 だが、相手方からの返事はない。
「よせ、フロラン」
 フロランを制止したのは船長であるディヴィであった。
 大きくはないが強い声で、フロランの感情を沈ませることに成功する。
「こちらには戦う意思はない。お前達の要求は何だ?」
 視線の先に浮かんでいる二十幾つの人影に向かい、ディヴィは声を投げかけた。
「要求か」
 ぽそりと返って来たのは酷く無愛想な声だった。
 そこには、敵意すら感じられない。
「特にこれと言って特筆すべきようなものは無いんだが」
 独り言とも取れるような声が、中空へと向かって放たれる。
 ディヴィ達は呆気に取られたが、どうやらそれは海賊達も同じようだった。
「おい、勘弁してくれよ。金品を残さず奪うくらいのことはしねぇと、ラムで突撃した分と差し引いて赤字になっちまうだろうが」
「私の船じゃないし」
「あのな」
 何やら駄々を捏ねているように見える、長身の男。
 そいつを放って、一人の男が一歩前へと進み出た。
 立派な顎鬚を蓄えたその男は、”バブーシュカ”の船員達をぐるりと見回す。
「ふん、まあいい。お前等、死にたくなかったら金品と食料を全てここに運んで来い。変に隠したりすんじゃねえぞ」
「ちょっと。船長は私なんだけど」
「……てめぇの船じゃないんだろうが。お前がもたもたしてっから、俺がやってんだよ」
 見知らぬ男二人の会話。
 それは何処か間が抜けていて、直ぐ付近に居たフロランを激怒させるには十分であった。
「おいお前等、解ってるのかよ! お前らの方が数が少ない癖に、勝った気になってるんじゃねぇぞ!」
 剣を握った両手がわなわなと震えている。
 フロランとは対照的に、敵のリーダー格らしい一人の男はがははと笑った。
 もう一人の、恐らく船長である男は憮然として佇んだままだ。
「なら、かかってくるか? 死んじまってからじゃあ、後悔は出来ねえぞ」
「抜かしやがれ!」
 よせ、とディヴィは叫ぼうとした。
 しかしフロランの動きは素早く、制止の声を受けるより先に、渾身の力で剣は振るわれた。
 がきん、と鈍い音がして、刃は刃によって受け止められる。
 そのまま振り抜こうとしたが、びくともしない。
 こいつ、かなりの腕力をしている。
 フロランは即座にそう判断をした。
 それなら中距離で、早さで撹乱してやる。
 素早く一歩下がり、再び剣を振るう。
 振るおうとした。
「え――?」
 だが、ぐらりと視線が崩れ落ちたのだ。
 立ったままのはずなのに……視線の先に、甲板がある。
 そこから動かせない。
 上半身と下半身が引き離されたのだと、フロランが気付くことは無かった。
 腕力だけじゃなく、早さでも圧倒的に敵のほうが上回っていたのだ。
 フロランが下がろうとしたその瞬間を見切り、横薙ぎに刃を振るい、そしてフロランの胴を真っ二つにした。
「い、痛い……」
 視線の先にある甲板が歪んでいく。
 幾つか……たくさん聞こえていた声が、何か別のものに変わっていく。
「助け、て……」
 ――大切な人、エジェリー。
 彼女はその胸に、子供を抱えていて……その顔は見えない。
 ああ、俺とエジェリーの間に産まれて来る、新しい命。
 どんな顔をしているのだろうか?
 子供の姿だけじゃない。
 何もかもが薄れて行って、見えなくなっていった。
 全てが激痛によって霞まされていく。
(嫌だ……俺は、まだ)
 その次の瞬間、彼の意識は寸断された。
 放たれた刃が首を落としたのだ。
 幸せな光景も痛みも、全てが天へと呑まれていった。
 失われた命の代わりに、死体からはどろどろとした液体が流れ出る。
「相変わらず甘ちゃんだな、お前は。やる気無かったくせに、痛がってると見るや止めを刺してやるなんてな」
「騒がしくされても困る」
「よく言うぜ」
 止めを刺した長身の男は、再びそっぽを向いてしまっている。
 残されたもう一人は顎鬚をしごくと、”バブーシュカ”の面々を見下した。
「今のヤツみたいになりたくなかったら、さっさとするんだな」
「その必要は無い」
「何?」
 大切だった仲間の亡骸の傍に立ち、ディヴィは真っ直ぐに敵のことを睨み付けていた。
 こいつらだけは必ず殺してやる――そう、溢れ出る怒りの感情を抑えずにそこにいた。
「俺の……俺達の生きる理由が今、半分無くなった。だが……貴様等の首を海に投げ棄ててからではないと、死ぬ気にはなれん」
「死ぬ気にならなくても、死ぬ時は死ぬもんだぜ」
 いかにも面倒臭そうに、男は言った。
 今、自らの向かいにいる男が如何なる思いで剣を握っているのか。
 そんなことを気に留めるつもりは欠片もない。
 ディヴィが甲板を蹴ると同時に、”バブーシュカ”の船員達もまた、一斉に敵へと襲い掛かった。
 例えようのない怒りにその身を任せながら。
 人員の数ではこちらが大分上回っている。
 負けるはずなど無いと、そう思っていた。
 それなのに皆”そんなはずはない”とそう思いながら、その命を散らしていった。
 長き時を過ごしてきた命がたった数秒の出来事によって断ち切られ、失われていく。
 そして剣戟の音が響かなくなるまで、十分と掛からなかった。
「……き、貴様等……」
 ただ一人、ディヴィだけはまだ辛うじて命の灯火を絶やさずにいた。
 顔面を大きく斬られており、あとたった数秒の命だと知りつつも。
「……この、辺りの人間じゃぁ、無いだろう。フランス人……か? 何故、同国人にこんな真似をする」
 今までの会話は全て、フランス語で行われている。
 海賊達にフランス人は一人としておらず、敢えてディヴィ達の言語に合わせて話していたのだが。
 だが、それをわざわざ説明する気も、時間もなかった。
「海賊だからだ」
 たった一言。
 その声が、ディヴィが耳にした最後の声となった。
 燃え尽きた命に彼らは何かを想うこともなく、再び海賊の会話をする。
「蝿みてぇに鬱陶しい連中だったぜ。さっさと貰えるものを貰って、戻るとしようぜ。なぁ?」
 頬についた返り血をぺろりと舐めて、髭面の男はそう口にした。
 右手の指は、耳の穴に突っ込まれている。
 その視線の先には、漆黒のトルコ帽を弄くっている無愛想な男。
「船に帰って寝る。後は勝手にやってくれ」
「おい?」
 くるりと踵を返す船長を見て、髭面の男は呆然とするしかなかった。
 今回ばかりはやけに動作が速く、あっと言う間に船から船へと乗り移っている。
「……今回は俺がわざわざ付いて来てやったから良かったものの……。偏屈なところも相変わらずだぜ、野郎」
 そうぼやきつつも、仕方なく自分達で略奪行為を開始することにした。
 たっぷり積め込まれた食料、交易品。
 交易品の中にはダイヤモンドも混じっていた。
 くまなく船の内部を回ってみたが、その他に目立った金品は見つけられず。
 船室の一つにひっそりと置かれていた指輪には数行の詩が彫られていて、誰にも届くことなく、それは海へと沈んでいった。

3

 未開の土地、ルアンダ。
 その異質な町並みに最初は戸惑いを感じもしたが、一年半という歳月がそれを馴染みある光景へと帰ってくれた。
 一つの仕事を終えて、およそ一月ぶりに帰ってきた町。
 港を出ると直ぐに、大切な家族達からの出迎えを受けた。
「かおるさん、お帰り!」
 よく響く少年の声がまず届いて来て、幾つもの声がそれに重なって鳴り渡る。
 少年少女達はかおるの姿を見かけるなり、こちらに向かって一斉に走ってきた。
 到達するなり、輪のような形になってかおるを囲む。
「何で此処に居る?」
 彼らの家は大分離れた場所にあり、徒歩では数時間も掛かる道のりだ。
 そしてかおるが今日帰ってくることは、彼らは知らないはずであった。
「みんな『かおるさんは絶対今日帰ってくる』って、毎日のようにずっと言ってたの。だから朝起きたら何時も、皆でルアンダまでかおるさんのこと迎えに来てたんだよ」
 健康的な小麦色の肌をした少女が、にっこりと笑って言った。
 しかしかおるはむっつりとして、何も答えない。
 彼が無表情なのは何時ものことだが、今回に限ってはそこに不自然さが加わっていた。
 少女アスナはそれがどのような意味を持っているのか、知っていた。
「ふふ。かおるさん、嬉しがってる」
 かおるはまだ黙ったまま。
 つまり図星であったと言うこと。
「危険じゃなかったのか? あの家からここまで、歩いて二時間は掛かるだろう」
「でも、獣の類は見ないところだから。平気よ」
「なら良いが」
「それより、ねぇかおるさん。折角町まで来たんだから、帰る前に色々見ていこうよ」
 アスナはかおるの目の前に進み出て、彼の瞳を覗き込んだ。
 恥ずかしがって視線を逸らそうとする、かおるの仕草を楽しむようにして。
「わたし、コーヒーが飲みたいわ。かおるさんも好きだったでしょ? コーヒー」
「コーシーか。悪くないな」
「えーっ! あんなの苦いだけの薬じゃん」
 大声で異を唱えたのはマテウスという名の少年。
 名前と肌の色からしてヨーロッパ諸国の生まれであることは間違いないが、彼はそれ以上に自分のことを知らない。
「マテウスももう少し大人になれば分かるよ。苦いものはね、その分体に良いのよ」
 アスナが優しく言ったが、マテウスはわざとらしくそっぽを向いている。
「おれ、どうせ健康だもん。体に良いものなんていらないよ」
 楽しそうに会話をしながら、町のほうへと歩いていく少年少女、そしてかおる達。
「そんなこと言っちゃ駄目。体に良いものを食べないとね、今は健康でも、やがてかおるさんみたいに不健康な大人になっちゃうわよ」
「え……それはちょっと嫌だなぁ」
「でしょ?」
 姉と弟のような二人の会話を、相変わらずの無表情で聞いているかおる。
 今度は別に嬉しそうな様子はない。
 少年少女と一人の胡散臭い男は、そんな風にして町のほうへと歩いて行った。
 少し後ろの方から、それをぼんやりと眺める男が一人。
(……こりゃ、邪魔者みてぇだな。俺は)
 顎鬚を弄くりながらぽつりとそう考えると、男は踵を返そうとした。
「何やってるの! クライドさんも来てよぉ!」
 しかしアスナのそんな声が響いてきて、クライドはいそいそと一行の後を追った。

 ルアンダの町が闇に包まれた時、一行は休憩所にいた。
 コーヒーには利尿作用があると知りつつも、かおるはガブガブと口にして、しょっちゅう席を立っては人気のない場所に消えていた。
 離席した回数が十を数えるくらいになった時、かおるはその人気のないはずの場所で、一人の男を見つけた。
「HIGEも立ちションか」
「みてえなもんだ」
「みたいなもんってことは、立ち大か」
「殺すぞ」
 それだけ言葉を交わし、無言になって並んで用を足す二人。
 その場は異様な雰囲気に包まれていたが、かおるはそれに気付かずに帰ろうとする。
「おい」
「ンア?」
 クライドが呼び止め、かおるは立ち止まった。
 返事もせず、振り向こうともせずに。
「お前、いつまでこうしてるつもりなんだ」
「立ちションならもう終わったが」
「そうじゃねぇよ」
 クライドの声は何故だか、荒いものになっていた。
 さすがのかおるも少し驚き、訝しげに振り返る。
「このままガキのお守りと海賊を両方続けてくつもりか?」
 クライドの陽に焼けた精悍な顔つきに、普段見られない沈痛な翳りが浮かんでいた。
 拭い切れない、やりきれない思いがそこには抱かれている。
 かおるはその鋭い目をさらに細めた。
「……そう言う約束で、俺をここまで連れて来たんじゃなかったか?」
「あぁ、確かにそうだ。だが、てめぇがこのままやってけるとは思えん」
 二人の間に、ピンと張り詰めた空気が漲っている。
 今のこの状況が歯痒くて仕方無えはずだ、とクライドの黒い瞳が言った。
「あのガキ共はてめぇが影で人殺しをしてるってこと、全く知らねぇんだろうが。隠し続けていれば、いつかテメェ自身の精神が保たなくなる」
「かと言って教えることは出来んよ」
「なら、ガキ共を騙したままでここにいるつもりか?」
「他にどんな手段がある」
 かおるは鋭利な刃物のような声で問うた。
 隙間風のような呼吸音、それが二つ、小さく鳴っている。
「ここでも、常に監視の目はある。下手に逃げようなどと考えれば……俺は問題無くやれるだろう。だが、アスナ達がどうなるかわからん」
「この後に及んでガキの心配か。てめえは」
「当たり前だ。でなければここに居る理由が無くなる」
 言うと、かおるは足音を立てて歩き出した。
 去るのではなく、クライドの方に近付いてきた。
「またかよお前?」
「文句は尿意に言ってくれ」
 その一言でクライドを沈めると、かおるはまたさっきと同じポジションにつくのだった。
 今度はやけに長く、暫くそっちの方にのみ、神経を傾ける。
 ようやくそれが終わった後、かおるは言った。
「俺はもう、何も失くしたくない。今ここに在るものを見られなくなるのが嫌なんだよ。――それを失くさない為なら、人殺しの罪だろうと甘んじて受け入れよう」
 たとえ過去を握りつぶしてでも、他人の大切な何かを踏み躙ってでも。
 今ここに在る宝物を失いたくはない。
 あの時のような思いをするのはもう、御免なのだ。
 大切だった仲間達の顔。
 それが一瞬浮かんで、滲んで消える。
 彼らの姿は度々浮かんで、今ここに在る幸せな光景の邪魔をした。
 今でも時々邪魔をするが、やがて消えてしまうだろうと思う。
 何より大事な子供達の姿が、代わりにそこに浮かぶ。
 かおるはクライドのほうを向くことなく、休憩所のほうへと歩いて行こうとした。
「……並の労力じゃねぇぞ」
「労せずして手に入るものではないことくらい、知ってる」
 そうだ、いつだってそうだった。
 きっともうこんな真珠のような光景は二度と手に入らないと、そんな風に思えた大切な時間が、幾度もそこに存在した。
 この幸せを失いたくないと、何度も考えたのだ。
 けれど何時だって、それは長くは続かずに……夏の夜に見る夢の様に、いつしかこの手から離れて、そして過ぎ去って行った。
 ――今この地ににある幸せの、なんと眩いことか。
 そうだ、今はただ浸っていればいい。
 守り続けていればいい。
 誰にも侵されることのない強き意思の元に、かおるはいつもと同じように、家族の元へと急いだ。



  1. 2005/08/22(月) 16:36:19|
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第十五章 時は流れ出した(後編)

4

 オスマントルコへの使節団がヴェネツィアを発ち、数日。
 その船団をガードしているのはヴェネツィア海軍の船であり、さらに特別に雇われた冒険者達の船がある。
 ”フォスベリー”の船長を始めとして、その冒険者達もまた熟練の船乗りだが、しかし。
(僕らがいる必要あるのか? これって……)
 オスマントルコの首都イスタンブールへと向かう洋上で、フェレットは思っていた。
 ヴェネツィア海軍の陣容たるやそうそうたるものだ。
 船数こそ多くはないものの、哨戒、護衛任務に使われるフリゲート船と主とした軍船で構成されている。
 それに比べてフェレット達の船団はと言えば、本来商船として多く使われるキャラック船を中心として構成されている。
(戦力で言えば、ヴェネツィア海軍だけで十分なのにな)
 いや、これから先は海賊の多い地域。
 どれだけ戦力があってもそれで足りているということは無いかもしれないが……。
 幾多といる冒険者、船乗りの中から何故僕らを選んだのだろうか?
 そりゃ報酬額は並じゃないし、こちらとしても良いこと尽くめではあるのだけれど。
 何にしろ、出来ればこのまま目立った遭遇もなく、イスタンブールに辿り着いて欲しいものだ。
(結構ガタが来てるからな、フォスベリーも……)
 手に入れた時はあんなに美しく、壮観だった船も何時しか傷つき、その命にも終焉が訪れる。
 幾度か経験したサイクルだ。寂しさは残るけれど、躊躇いはない。
(次は大型のキャラベル船にでもするかな)
 寂しさは直ぐに新しきものを求める好奇心へとすりかわり、フェレットは頭で構想を練り始めるのであった。

「ねぇ、レティシアちゃん」
 速度に特化したダウ船、”シャルトリューズ”の船上。
 ここでもまた、
「この依頼の報酬で、船を買い換えようと思うの。次はどんな船が良いかしら?」
フェレットと話し合った訳でもないのに、そんなやりとりが行われていた。
「わたし、ナオが良いな。あのヴァスコ・ダ・ガマのサン・ガブリエル号と同じやつ」
「船長にゃ、意外にガレー船とかが似合うんじゃないか?」
 横から口を挟んだのは副官を務めるグラフコスだ。
「生憎、ガレーは私よりも相応しい船長が他にいるからね。…そうだな、サムブークなんか良いかもしれない。ダウと同じくらい早い船だし」
 このダウ船も何代目かの”シャルトリューズ”だ。
 ”フォスベリー”そしてガレー船”永久機関”とともに、船を変えながらもその名は引き継がれてきた。
 三つ子のように時を過ごしてきた三隻の船のうち、一隻は今、倫敦へと残されたまま。
(かおるさんはきっと、次もガレーだろうな)
 アイはそんなことを自然と思い浮かべていた。

 以前訪れたクレタ島にあるカンディアの町では、今回は補給のみを行った。
 それから数日をかけて、エーゲ海に面した所に位置する町、アテネへと到着する。
 北は山、南をエーゲ海に囲まれた街アテネは、綺麗だがどこか古風な町並みをしていた。
 倫敦やセビリアが時代と共に移り変わって行き、常に進化を遂げてきた町であるならば。
 アテネはかつての町並みを残したままで、そこにまた未来の光景をも共存させてきたのだろうか。
 その古めかしささえもまた新鮮に思え、ギリシャ語で覆い尽くされたこの土地はとにかく魅惑的であった。
 今は依頼の最中だと言うのに、面々は観光気分で町へと繰り出すのだった。
 町は大きく分けて、四つの地区に分かれている。
 アテネのヘソと呼ばれるシンタグマ広場地区を一通り目にした後、活気のあるプラカ地区を訪れた。
 丁度この日は市が催されていたようで、フェレットとアイ、そしてリィの三人は辺りをぶらぶらと見て回った。
「フェレさん、見てください! 魚肉が安いですよ! あ、それにオリーブもたくさん!」
 はしゃぎ回るリィを見て、やれやれと息をつく二人。
その表情は微笑ましそうにしている。
「魚肉なんか買ってどうするんだ? 調理する場所も無いし、大体そこにある魚なんて、普段僕等が釣ってるのと同じ種類だぞ」
 フェレットは英語でそう口にした。
 だが、リィも今回は負けていない。
「そんなこと言うの、フェレさんらしくないわ。いつもなら率先して珍しい物を全部買ってくでしょう?」
 そう、即座に言い返した。
「……僕ってそんなイメージで見られてるの……?」
 アイのほうに振り向くと、彼女も直ぐに頷きを返す。
 そうして彼女もそこに言葉を連ねた。
「ってことはつまり、リィちゃんはフェレさんに悪影響を受けてるのね。このまま放っとくとまずいかもしれないわ」
 その声にもまた、悪戯めいたものが混じっている。
 それすらも、リィを動じさせるには足りないものであった。
「うふふ、確かに影響は受けてますよ。だってずっと一緒にいるんだもの。でも決して悪影響なんかじゃないですよ。フェレさんから教わった釣りだって今や立派な趣味になってるし、散歩の楽しみ方だって、夜空に浮かぶ星の形だって、みんな。本当にみんな、フェレさんと会えたから知ることが出来たんです」
 リィは恥ずかしがりながらも、しっかりとした声で言った。
 思わず聞いていた二人が黙り込んで感心する程である。
 その反応が、さらにリィのことを照れさせてもしまうのだが。
「元気になったわ、随分。もしかしたらリィちゃんは、記憶を失くす前はもっともっと、騒がしい子だったのかもね」
「ああ。それは有り得るな。今まで大人しかったのは緊張してたからで、少しずつ地が出てきたのかも」
 そう言って大いに笑う、フェレットとアイ。
 リィもわざとらしく顔をしかめていた。
 けれど、その瞬間に。
 ほんの一瞬だけ、何かが心の中を通り抜けて行った。
 二人の声も聞こえなくなって、リィの意識は何処だか判らない場所をぐるぐると回った。
 ――それはこの町の風景?
 もしかして……自分はずっと昔に、此処を訪れたことがある?
「リィ?」
 不思議に思ってフェレットが訊ねた。
 リィは既に我に返っていて、すがるような瞳でもって見返す。
 フェレットは当然その視線の意味に気付く事はなかった。
「あ、ちょっと立ち眩み……してました」
「大丈夫? リィちゃん」
「はい。一瞬でしたから」
 ――違う。
 町の風景が過ったんじゃない、それはただ目の前にあっただけ。
 けれど今、確かに私の中の……一番奥にあるところに、何かが触れた。
 痛かったのだろうか?
 もう、何も覚えていない。
 結局市で幾つかの食品を買い込み、一行の両手は荷物で一杯になった。
「にしてもこんな旅行気分で良いのかね、僕等。パング君らはコロナキ地区に行ったんだっけか。他の船員も四方に散らばってるけど…呼び出しとか来ないだろうな」
 アテネには昼に到着したのに、気付けば辺りは真っ暗だ。
 今更そんなことを心配しても遅い気もするのだが。
「ゼルダさんが良いって言ったんだから、良いんじゃない? ここまではしゃぎ回るとは、さすがに予想してなかったかもしれないけどね」
 アイに言われても、フェレットはまだ心配げな様子。
「使節団の人らとも、最初に一回挨拶を交わしただけだしな。裏が有りそう……とは言わないけど、やっぱり国家の重要な機密はひた隠しにされるって訳か」
「当然でしょ。一介の冒険者にべらべら喋る道理は無いもの」
「いや……実は影で、オスマントルコとヴェネツィアが手を組んでいる可能性も考えられる。そうして、イスパニアの最重要冒険者である僕や、イングランドを影で操る酒飲み女王のことを、依頼にかこつけて始末するのが奴等の依頼なんだ」
「フェレさん……?」
 いきなり表情に影が落ち、何かをぶつぶつと呟いているフェレット。
 それを見て、リィもまた不安そうな顔をする。
「……もしこの依頼中に死ぬようなことがあったら、僕は自分の善人さを恨むしかなくなるな。そしてヴェネツィアの狡猾さを憎みながら、夜の静寂の如くな死を向かえることに……」
 声が終わる頃には、リィはもう平然としていた。
 それがフェレットが何となく仕立て上げた三流の劇だということに、気付いたからだ。
 アイに関しては最初からただ目を細めると言うリアクションをしているのみ。
「フェレットさん」
 が、次に届いてきたその声は、三人の心を同時に揺さぶった。
 ハンマーで殴られたかのような衝撃を受けて、視界が覚束無くなる。
「フェレットさん達もこの市に来られてたのね。ふふ、ご機嫌麗しいみたいで何よりだわ」
 現れた姿は、美しさと凛々しさを兼ね備えた女性のもの。
 使節団を護衛する海軍を取り纏めている若き司令官、ゼルダがそこに立っていた。
「あ、こんにちは。それにロッティも」
 彼女の後ろには”フォスベリー”の副官であるロッティーナもいる。
 ゼルダのことをここまで案内してきたのだろうか。
 ロッティーナが苦虫を噛み潰したような表情になっているのは、おそらくさっきのやり取りを耳にしたからであろう。
 そして彼女の顔を見やって、フェレットもようやく自身の失言に気が付くのであった。
「いや、今のはその。イスパニアのアンダルシア地方で流行っているオペラの一場面でして……けして本心から口にした言葉では……」
 フェレットだけでなく、アイとリィも焦っている。
 眼の前にいるこの青年が、たった一言で国家間の関係を危うくさせた英雄として歴史に名を残さないようにと、フォローすべく様子を伺っている。
「別に構わないわ。貴方達に詳しい事情を教えてなかったこちらが悪いんだもの」
 ゼルダは意外にもあっさりとしていた。
「今回の使節団に関しても、別に同盟を組むとかではないの。ただ、交易関係の話をしに行くだけでね。わざわざ話す程でも無いと思って、教えてなかっただけなのよ」
 かつて東地中海の交易を制していたのはヴェネツィア、ジェノヴァの商人達であった。
 しかし数十年前にオスマントルコが東ローマ帝国を滅ぼしたことにより、支配者が交代。
 交易のルートは目に見えて狭まり、ヴェネツィアの商人達にとっては困難な状況を極めているのだ。
「にしても、無礼な発言であったことは確かですわ。代わりにお詫び致します」
 言葉を探しているフェレットの代わりに、アイが謝罪をした。
「いいの。アイさんも、顔を上げて」
「しかし……」
「お気になさらずに。……そうね、それじゃあ代わりにと言ってはなんだけど」
「はい?」
 アイは自分の目を少しだけ疑った。
 ゼルダが一瞬だけした表情は、まるで玩具を手にした子供のように、無邪気なものに見えたのだ。
「この市場に並んでいるものを、貴方達に色々と説明して欲しいのよ。今までこう言ったものに触れたことがないから、よくわからなくて……」
「触れたことがない?」
 フェレットがぽかんとして訊ねる。
「仕事で他の国を訪れることはあっても、そんな時間はなくてね。それに教えてくれるような人もいなかったの。だから、貴方達の冒険者としての目、口で、私に説明をして欲しいわ。そうしたらさっきの発言は許してあげる」
「成る程……」
 意外な話だ、とフェレットは思った。
 ……いや、意外でもないか。
 それこそ船乗りか商人でもなければ、各国の市場を回る機会なんてそうそう無いだろう。
「っても、僕等確かにこうやって市場を回るのは好きなんですけど、自慢じゃないが交易の腕はさっぱりなんです。それでも良ければ」
「構わないわ」
「そう言うことならば、喜んで」
 フェレットは間近にあったオリーブを手に取って、そして嬉々として解説を始めるのであった。
 交易が下手でも、とりあえず面白おかしく解説することにかけては一級品である。
「あ、ちょっと待って。その前に一つ」
 楽しそうにしていたゼルダの顔が、突如として引き締まる。
 フェレットの右手にはオリーブが収まったままだ。
「偵察船から連絡が入ったの。イスタンブールの間近に位置するボスポラス海峡が、海賊に封鎖されているらしいわ」
 その一言は、和やかな空気を一瞬にして張り詰めたものへと変化させた。
 周囲の活気さえもシャットアウトされて、三人の耳はただゼルダの声だけを受け付けるようになる。
「戦力はどれ位なんです?」
「そこまでは未だ判明してないわ。けれど、まず戦いは避けられないでしょうね」
「……僕らが此処までやって来たことが、無駄足にならなくて良かったですよ」
 フェレットは言った。顔は笑っていない。
「そうね。貴方達がどんな風に動いてくれるか、期待してるわ」
「ええ、任せて下さい」
 そう返事したものの、しかしフェレットの胸の内にはやはり疑問が残ったままであった。
 耐え切れなくなり、質問を投げかける。
「でも、あれだけの戦力があるなら僕等なんて必要ないと言うか、むしろ足手まといになっちゃいませんかね? 僕等は本職は冒険者だし、正直役に立てるかどうか」
「謙遜することは無いわ」
「いや、謙遜じゃなくて! 未だに何故、ゼルダさんが僕等を選んだのか不思議でしょうがないんですから!」
「貴方達ならきっと力になってくれる。そう思ったからよ」
「……何処を見て、そう判断を?」
「何処を、か。そうね」
 ふうと息をつき、会話の途中であると言うのに、ゼルダは空を見上げるのだった。
 そこに浮かぶ光景は未来か、それとも。
「今から数年前に、私は一度貴方達のことを見掛けてるのよ」
 少しだけ小さくなった声で、ゼルダは言った。
「マルセイユの海事ギルドでね。なんて騒がしい連中だと、その時は思ったわ」
「マルセイユ……」
 フェレットとアイは、互いの表情を見合わせた。
 東地中海は今までにも何度か訪れているが、マルセイユの海事ギルドに行ったことは――。
「確かアイさんと知り合って、船長が三人になってからの初めての航海で……あれ、マルセイユだったっけかな。私掠船討伐の依頼を受けたのは」
「マルセイユよ。あの町で海事の依頼を受けたのは、後にも前にもあの一回だけね。ああ……」
 思い出そうとするアイの顔は、少しだけひきつっていた。
 嫌な記憶なのだろうか? とリィは黙って言葉を待っている。
 その、たった一度の依頼。
 それを受けた際に、また例によって彼等は一騒動を起こしていたのだ。

「ちょっと! 折角マルセイユくんだりまで来たってのに、他所のギルドへの連絡文書を送る依頼しか無いってどう言うことだよ!」
 そうやって海事ギルドの依頼代理人へと噛み付いているのは、当時まだ十代後半の若き船長、フェレットであった。
 その横にはかおるもいる。
 フェレット程声を大きくはしていないが、わざとらしいじと目になって、ずっと依頼代理人を見つめているのだ。
 アイはと言えば、少し離れたテーブルに座りながらフランス、ブルゴーニュの葡萄酒を上品に飲んでいる。
 しかし内心ははらはらしていて、ちらちらと二人のほうを見やりながら、それでも我関せずを装っていた。
(あの二人……紳士とは思ってなかったけれど、初めて会った海事ギルドの人にああまで馴れ馴れしく、しかも無礼に接してるなんて……。もしかして、加わる船団を間違ったかしら)
「本当はもっと、普通の船乗りとかには言えないような依頼があるんでしょ? 有るけど敢えて黙ってたりとかしてるんでしょう? 頼むよ、ここでまた安い依頼なんか受けると、そろそろ水夫達への給料が払えなくなりそうなんだ」
「うちの軽ガレー船なんか、もうオールが腐りかけてるよ」
 打ち合わせもしてないのに、二人の呼吸はぴったりと合っている。
「船団の水夫達、みんな大食いなもんで、財政難のせいでちゃんとした食事もあげれなくて……毎日辛い思いをさせてるんだよ」
「うちの軽ガレー船なんか、もうオールも半分くらい食べられたよ」
「……ほう」
 依頼代理人はその茶番劇を、仏頂面をして聞いていた。
「……どうして、そんなに金を必要としてるんだ? 大食いのせいだけか?」
「いや、それだけじゃない!」
 ここぞとばかり、フェレットは言葉を捻じ込む。
 ばっと右手を開き、そして人差し指を背後のテーブルのほうへと向けた。
「実はあの、ついこの間船団に加わったあの女船長が、僕等の予想を遥かに上回る大酒飲みで! 安い依頼をこなしても、あっさりと酒に変換して飲んじゃうんだ!」
「な……何ですって?」
 思わぬ方向に矛先が向いて、アイは思わずワイングラスを取り落としそうになった。
 責任転嫁も甚だしいが、ここで下手に反撃しては……自分まで、あの二人と同じように見られかねない。
「こないだうちの軽ガレー船も、オールを半分くらい酒と勘違いされて飲まれたよ」
「飲むかぁ!……あ」
 かおるの無表情な声に、つい反応してしまった。
「いや、その……たまたまこの二人が極端に酒に弱いだけで、別に私は、大酒飲みでは……」
 弁解するアイであったが、そんな声は依頼代理人に届いてはいなかったのだ。
 岩のように固まっていたその顔が、何時の間にか若干緩んでいるその理由は。
「……俺もかつては、あんたらのように船乗りとして海を行く者だった」
 あれ? とフェレット達は首を傾げた。
 依頼代理人の目尻に、小さな光が宿っていたからだ。
「旅の途中に出会った女船長と一緒に旅をしてたんだが、そいつは壊血病にかかって死んじまった」
 ほろり、と涙が頬を伝い落ちる。
「その新しく加わったって言う女船長、精々いたわってやりなよ。くれぐれも自棄酒を飲ませるような真似だけはしちゃならん」
(いや、別にヤケ酒を飲んでる訳じゃ)
 アイは訂正したかったが、どうせ聞いてないだろうと諦めた。
「……私掠海賊を討伐してくれとの依頼が来てる。それをあんたらにやって貰おうか」
「やったあ!」
 歓声を上げる三人。
 何事も言ってみるものだ、と心の中でにやにやとしながら。
「だが敵は数が多いし、それに三十日以内と言う期限も定められている。あんたらに黙っていたのも、現時点ではきつそうだと判断したからだ。そっちの戦力は軽ガレー一隻に軽キャラベル、それにブリティッシュコグだろう? 敵は恐らく、キャラベル船が六、七隻はいる」
「問題ない。行動は迅速に、正確にだ」
 難色を示しているその声を、かおるが一言で切って落とした。
「……楽勝、だね。こっちには肉食獣みたいな船長が一人、いることだし」
「ええ、楽勝だわ……多分」
 フェレットとアイは、かおる程楽観的にはなれないらしい。
 敵の数を聞き、あからさまに蒼ざめた表情に変わっている。
「……で、やれるの? かおるさん」
 二人の声がほぼ同時に、かおるの両耳をついた。
「海の藻屑となるのも面白い。行こうか」
 その無表情な口元がぐらりと傾いた。
 僅かな笑みを刻みながら、かおるはくるりと踵を返し、そのまま歩いて行った。
「……あれって、大丈夫なの? フェレットさん」
 アイが、今度はフェレットに訊ねる。
 「危ない橋も平気で渡る人だけど、あれは何だかんだでやれる自信があるんだと思いますよ。平気平気」
 かおるの声を聞いただけで、フェレットの顔は平然としたものに戻っていた。
「でも、戦力差が相当あるみたいだけど」
「この船団で航海を続けてくうち、やがてスリルも楽しめるようになりますよ」
 そんな馬鹿な、とアイは思った。
 だが、今更決定は覆らないだろう。
「海の中の生き物になるんなら、藻屑じゃなくてイルカ辺りになりたいな。さ、僕等も行きますか」
 フェレットもまた、似たような動作で入り口の方へと歩いて行った。
(心強いような、不安なような)
 彼らの後に続こうとしたアイを、依頼代理人の声が呼び止める。
「それじゃ、詳しい依頼の説明はあんたにさせてもらおうか。時間が限られてるから、ちゃんと聞いてくれよ」
「はあ……はい」
 ワイングラスを放り、説明を受けるアイ。
 そして、このギルド内にいるのは、依頼代理人とアイの二人だけではなかったのだ――。

「戦力を聞いて唖然としたわ。中には無謀な冒険者もいるものね、ってね。けれど貴方達はそれから一月後、立派に依頼をこなして帰って来た」
 ゼルダは言った。
 彼女の言葉は確かに間違いではない。
 たった三隻の戦力で、私掠船を全滅させると言う戦果を上げたのだ。
「その時に貴方達の名前を耳にしてね。それに北海で海賊ウルフガングを倒したのも貴方達だと聞いたわ。もし機会があったら、貴方達と行動を共にしてみたいと、そう思っていた」
 ゼルダの視線は、フェレット達のことを正面から見据えている。
(そうだったのか。この人も、私と同じ……)
 ヴェネツィア海軍を率いる立場にいるこの女性に、ロッティーナは親近感を覚えるのであった。
「納得して貰えたかしら? 私が貴方達を誘った理由。そして貴方達なら立派に戦えると、そう思っている理由を」
「ええ」
 返事したのはフェレットだ。
 確かに事情を聞いて、彼女の思うところは解った。
 だが、たった一つ残された問題がある。
(あの時……僕等も確かに頑張ったけど、敵船を一からぶち壊してったのは殆どかおるさんなんだよな……)
 軽ガレー船の無謀とも言える特攻により、意表を突かれた私掠船群は次から次へと撃破されていった。
 フェレットらはと言えば、只管後方支援に徹していただけ。
 だが、それを言い訳にして、今ここで逃げるなんてことは出来ない。
 だってこの人は、それだけの期待を僕達に抱いてくれているのだ。
「ご期待に添えるか分かりませんが、僕等らしいことをしろと言われれば、誰よりもちゃんと出来る自信はあります。それで良いですかね?」
「何より、それを望んでいるわ」
 元々おだてに弱いフェレットだ。
 彼女がどれだけの期待をしているか知り、いつしか自己顕示欲が、不安を追い越していた。
(やるしかない)
 フェレットの体に無意識の力が篭り――握っていたオリーブがひとつ、ぐしゃりと潰れた。

5

 東地中海には相変わらず、船の姿はあまり見られなかった。
 しかしエーゲ海、アテネより北のサロニカ諸島に差し掛かった辺りで、急に辺りの海がざわめきを増すのだった。
 アテネを発つ直前、ゼルダは言っていた。
 「海峡を封鎖している海賊もだけど、イスタンブールの周辺は海賊の巣窟になってるって噂だわ。全てを相手にしてたら、それこそこの戦力でも足りないくらいなの。自分から向かって来る海賊船以外は、全て無視してちょうだい」――と。
 確かにこれは凄まじい、とアイは思った。
 ”シャルトリューズ”の船上から眺めているだけでも、異様な雰囲気が伝わってくる。
 青、緑、黒、様々な色が交じり合った海の上を、幾つも蠢く影がある。
 ぱっと見た限りでも十隻近く……これからイスタンブールに辿り付くまで、その数倍にはなるだろう。
「ヴェネツィア海軍としても、猫の手も借りたくなるわけね」
「その猫の手は、この辺りの海賊に通用すんのか?」
 少々慌て気味に口を挟んだのは、”シャルトリューズ”の副官グラフコス。
「さっき、バーバリアンガレーが数隻浮かんでんのを見た。あんなのに突っ込まれでもしたら……俺は無駄死にすんのは御免だぜ、船長」
「折角拾った命じゃない、無駄に落とすなんて勿体ないわ。落とさないようにしながら、なんとか使ってちょうだい」
「落とさない手段とかを教えてくれる訳じゃねぇんだな」
 そう返ってきて、アイはそうねぇ、と寸分考えた。
「失くせないものを、たくさん作れば良いんじゃないかしら? もし自分が死にそうになった時に、それらのことを思い浮かべるの。そうしたらきっと、こんな所で死んでられるかー! って奮起出来るわよ」
「船長で言う、あのガキみたいにか?」
 と、グラフコスは右手の指で、甲板の隅にいるレティシアのことを指すのだった。
「誰がガキよ! これでも年齢はあんたとそう変わらないんだから!」
 レティシアの怒りの声が返ってくるも、グラフコスは早々に視線を逸らしてやり過ごす。
「じゃあよ。仮にその失いたくないものが先に失くなっちまったら、どうすんだ?」
 その問いは再びアイへと向けられている。
「レティシアちゃんは死なないもの」
 アイはきっぱりとそう言い切り、結局そこで会話は途切れたのだった。
 グラフコスはわざとらしく呆れ顔をしてみせた後、ふと、真顔に戻り。
(失いたくないモンか。……確かに無えな、俺には)
 生んでくれた親の顔さえ、もう忘れている。
 ……確か、何処かの胡散臭い商会の奴等に殺された。
 そうして行き場を失い、賊に身をやつして今まで生きてきた。
 最早当たり前のことになってしまって、それを寂しいと感じたことなど今までには無かったはずだ。
 何故だろうか。この船に乗ってから、今まで凍り付いていた何かがじわじわと溶け出してきているような、そんな気がしている。

 イスタンブールに近付くにつれ、船団はじわり、じわりと速度を落として行くのであった。
 敵の出現を警戒しているのもあるが、航行中にやたら藻が絡み付いて来て、それがこちらの行動を阻害していた。
 この辺りは開けた海ではなく、陸と陸に挟まれた狭い海域を、窮屈な思いをしながら進んで行くしか無い。
 こちらが小船ばかりだったなら、すいすいと抜けることの出来た場所なのかもしれないが……。
「まずいかもしれないですね、船長」
 辺りをきょろきょろとしながら、”コンスタンティア”の副官、リズウィーが言う。
 その仕草は何処か小動物のようで、見るものの不安を煽りもするが、これでも測量をやらせれば右に出るものはいない優秀な船乗りなのだ。
「例の海峡もこんなに狭かったとしたら、海賊は小回りの利く船でこっちを撹乱してくるかもしれません。そうしたらこっちは数が多い分動き辛いから……大変なことになっちゃうかも」
「大変なことって……」
「やられちゃうかも、ってことですね」
 リィの声に、リズウィーは躊躇わず返事をした。
 しばし考え、リィは言葉を返す。
「けど、小さな船は武装にも限界がある。この戦力なら、ちょっとやそっとのことじゃ揺るがないと思うわ。むしろ素直に大きな船で来られた方が厄介かもしれない」
「あぁー成る程。それも確かにですね」
 使節団が乗る船の中心を、海軍のフリゲート船が囲っている。
 フェレットやリィ達の船は、それをさらに覆うようにして外側に配置されているのだ。
「やれますかね? 私達」
 リズウィーが訊ねた。
「やらないと。女性ばっかりの船でも、力になれるってところを見せてあげましょう。頑張ろう? リズウィー」
「はい!」
 リズウィーは不思議な感触を覚えていた。
 船長はあんなに華奢な体をしていて、声だって細いのに。
話していると……不思議と、この人ならやれそうな気がする、とそう思わせてくれる。
(私はそんな船長を、目一杯フォローしよう)
 更に狭まって行く海の先を見ながら、リズウィーは思った。

 ボスポラス海峡は、トルコのヨーロッパ部分とアジア部分を隔てる海峡。
 南北に細長く続いているものの、その横幅は僅か七百メートル程度だ。
「聞きしに勝る狭さだな。いや、聞いたことなかったけど」
 ”フォスベリー”の船上には、にわかに緊張が漲っている。
 フェレットが意味の通らない発言をしているのも、不安に苛まれているからなのだろうか。
 いよいよ船団は海峡へと差し掛かり、そして海賊が姿を現わしたのだ。
 船の数はこちらよりも大分少ない、四隻。
 あの高い船首楼を持った大型の帆船は、おそらくキャラック船だろう。
「船そのものは”フォスベリー”よりも大きいな。だが、思ったより少ない」
「数から言っても、こちらの方が明らかに戦力が上ですね」
 ロッティーナの声に、フェレットは頷いた。
「そうだな、どうするか」
 顎に手を当てて、フェレットは唸っている。
 じっくり考えているように見えて、その額には汗を滲ませながら。
「そうだ、ロッティ。とりあえずアレをやるか?」
「アレとは?」
「ラッシャァオラァってやつ」
「やりません」
 切って落とすような返事が来た。
「そんなことをしてる場合でじゃないでしょう。ゼルダさんは我々に期待してくれているのですよ。船長がここで頑張ろうって言う姿勢を見せずにどうするんですか」
「まぁ……そりゃそうだけどさ」
「どうしたんです?」
 元気無く呟くフェレットを見て、ロッティーナは怪訝な声で問う。
「あの若さで海軍中尉を務めてるような立派な人が、なんで僕等にそこまで入れ込んでるのかなぁって」
「人が他人に入れ込む理由なんて、理屈じゃないですわ。理由はともあれ、期待して頂いているからにはちゃんと応えてあげないと」
「……そうだな。いや、単純にちょっと気になっただけだよ」
「船長。そんなことより」
「そうだな、作戦だな」
 敵はもう、間近に迫っている。
 悠長に話している時間などないのは誰しもが解っていることだ。
 フェレットは右手でこめかみを弄繰り回している。
「予め立てておいた作戦内容はどうなってるんだね。ロッティーナ」
 フェレットはいきなり改まった口調になり、彼女に問い掛けた。
「敵船が我等より同数以上だったなら、包囲を崩さず防護態勢でいく、と言ってましたね。船長が」
「うん」
「こちらより少なければ、旗艦狙いで攻めると」
「ああ、そう言った」
「となると、攻めの作戦を取る方向で?」
「作戦通りで行こう。僕等の船団も決して弱くないし、固まって進めば平気だろう。後方支援をしてくれる艦隊も頼もしいことだし。それこそかおるさん並の活躍をしてやるつもりで行くぞ」
「了解しました」
「……今日は妙にストレートに聞き入れてくれるんだな」
 フェレットは少し、驚いた様子だ。
「私を何だと思ってるんですか?」
 折角すんなりと進んでいたのに、余計な一言のせいで雲行きが怪しくなる、二人のやり取り。
 だが、さすがに場をわきまえてはいる。
「船長達はこう見えても、海での戦闘を幾つもこなしていると聞きました。私はこの船に乗り込んでから、ちゃんとした海戦を行うのは初ですし」
「実戦経験は君のほうが豊富なんじゃないのか?」
「そうですけど、でも……私も、ゼルダさんと同じように……」
 ロッティーナは何かを言いかけて、口をつぐんだ。
「……船長は私ではありませんから。私は貴方に従います」
 あからさまに言葉を変えたのがわかって、フェレットはぽかんとした顔つきになった。
「いや、ゼルダさんと同じように、って言わなかったか? 今」
「何でもありません! それよりも、敵は直ぐそこなんですよ!」
「……? ああ、そうだな」
 フェレットは表情を引き締めると、船員達にそれぞれ指示を送り始めた。
 視線はもうロッティーナからは逸れている。
 彼女の瞳が、密かに彼のほうを向いていることも知らずに。
(私もゼルダさんと同じように、あの人を見ていたい。だってまだ、私はそこまであの人のことを知らないもの)
 そうだ、敵は直ぐそこにいる。
 意識しなくちゃいけないのは、むしろ私のほうか。
 そう浮かべて、ロッティーナは独り静かに悲しい笑みを刻んだ。

 使節団を護衛するヴェネツィア海軍の船にもまた、細かい指示が送られていた。
 ただしこちらはフェレット達以上に積極的に動くことはせず、使節団の乗る船が被害を負わないことを第一に考えている。
 旗艦であるガレオン船の上で、ゼルダは一人戦いの動向を見つめていた。
 海軍の船を囲うようにして進んでいた、冒険者達の船団が包囲を解いていく。
 散開はせず、纏まったままで一つの巨大なラム(衝角)と化し、海を貫き進んで行く。
(強気に攻めるわね)
 彼等なら出来る、なんて言葉は、戦場では不確かな言葉でしかない。
 戦力が倍上回っていない限り、勝ちを確実に掴めると思ってはいけないのだ。
 仮に倍上回っていたとしても、抜群の戦術でもってそれを引っくり返す提督も、中にはいるのかもしれない。
 狙ってそれをやろうとする人間は天才かもしれないが、無謀の天才は部隊には要らない。
(この辺りを長く根城にしている海賊達だったら、地形にも慣れているはず。侮ってはいけない)
 ゼルダは船員達のほうへと振り向き、そして指示を送り始めた。
「私達は突出しすぎないよう、このままゆっくりと前進するわ。冒険者達の船を隠すよう、上手く前方に弾幕を張って」
 別に彼らの御手並みを拝見しようなどとは思っていない。
 だが、彼らが自ら進み出ると言うのなら、それを止めようとは思わない。
 フェレットらの船団を瞬く間に弾幕の霧が覆い隠し、そして海賊からの砲撃を届かなくさせた。
 海賊達の射程が狭まっている間に、フェレット達はさらに前進して行く。
(進むと言うなら、私もやれるだけのことをするまでだわ)
 ヴェネツィア近辺はともかくとしても、東地中海は少なからず海賊がいる地域だ。
 この程度の規模の海戦なら、今までに幾度となく経験している。
 ゼルダの指示は的確で素早かった。
 優先すべきは使節団の護衛だが、同時に海を駆けて行くフェレット達の船の行方をもその瞳で追い掛け、そして守るつもりでいた。
 その瞳に秘められしは、意思の力。
 淡く鋭く光る瞳は、過去と現在の光景の間をゆらゆらと揺れて、それでも輝きを失わずにいた。

 真っ直ぐに海を行くは、冒険者達の船。
 それらは海上の城と化し、必勝の気合を込めて海賊達へと向かって行った。
 アイの船”シャルトリューズ”は他の船よりも速度で勝っている分、細かな調整をしながら、足取りを乱さぬようにしていた。
 下手に突出すれば、瞬く間に集中砲火を受け、沈没させられてしまうだろう。
 それに何より、彼女は自分がかおる程無鉄砲ではないことを知っていた。
 自分だけじゃなく、フェレットもまたそうだ。
 長年の付き合いでそれなりに仲間のことを解ったつもりになっているが、フェレットは慎重なタイプ……とは言い切れないが、少なくとも無駄に自分の命を粗末にするようなことはしない。
 慎重と言うより要するに臆病と言ってしまったほうが近いだろうか。
 なのに今回、海軍より先んじて敵に攻撃を仕掛ける役目を自ら選択した。
 その理由、なんとなく想像はつく。
(フェレさんは気負ってる)
 かつて船団が、自らの戦力に似合わぬ大きな依頼を達成した。
 そのことをゼルダさんが知っていて、今自分達に期待を寄せてくれている。
 ……本当はあの時はかおるさんが主に敵と戦って、私達は援護を主としていた。
 だけど今はかおるさんはいない。
 ”自分が先陣を切ってやらなければ”と、きっとそう思ってる。
 その事実に、焦らされているのだ。
「アイさん、このまま突っ込むの?」
 船室に入っていたレティシアが、ちょこちょこと歩いてきて訊ねる。
 どうなのかねえ、とアイは曖昧な声を返した。
「まあ、大丈夫。なんとかなるわ」
 続けてまた、曖昧な声。
 レティシアの顔がたちまち不安なものになった。
 しかしアイは至って平然とした表情だ。
「みんな何だかんだで、海戦の経験も豊富な船員達だもの。船長がちょっとミスを犯しても、フォローはしてくれるわ」
「船長って……アイさんがってこと?」
「私に関してもそうね。レティシアちゃん、そう言うことだから宜しく頼むわね」
「頼むって言われても……」
 レティシアの困っている様子が愛らしくて、アイは表情にしっとりと笑みを滲ませた。

 アイの口にした”船長”という単語が果たして誰のことを指しているのかは不明だが、フェレットの船”フォスベリー”は先陣を切って敵へと到達し、しかしそこから先に進めずにいた。
 幾度となく砲撃を繰り返しているものの、敵のキャラック船は思った以上に強固で、攻め倦んでいたのだ。
「あの船は鉄でも貼ってあるのか? 全く傷ついている様子がないじゃないか!」
 情けない声で叫ぶ”フォスベリー”の船長。
 隣では冷静な視点で、ロッティーナが物を見つめていた。
「砲撃の威力もかなりのものです。やはり一隻の性能では相手が上回っているみたいですね」
「僕らの船団は向こうより一隻多い、五隻だぜ。それに背後には多数、海軍の船が控えてるし。ちょっとばかし性能で上回ってるくらいで……」
「海軍の船は護衛を最優先にしてますからね。私達の船が突撃したせいで、そうせざるを得なかったんでしょうけど」
「言い辛いことをあっさり言ってくれるな」
「事実ですから」
 二人の間に微妙な空気が流れたが、一瞬で収まる。
「ここにかおるさんがいたなら……戦局を一瞬で変えてくれそうなもんだけどな」
「どうやって変えるんです?」
「ああ、ええーと。この距離から怒涛の勢いでオールを漕いで、敵船へと近付いて行って」
 フェレットはオールを漕ぐ動作をわざわざしてみせた。
 さらに剣を抜き払って、それをぶんぶんと振りまわすふりまで。
「ばったばったと敵を切り払って、気付けばあっと言う間に敵船が空っぽになってるんだ。刃で裂いたり海に落としたりと、凄まじいもんだよ」
「つまりかおるさん並の活躍をするには、私達もそれくらいのことをしないと駄目なのですね」
 確かに強引に敵船へと乗り込んで白兵戦に持ち込んでしまえば、船の性能差は問題では無くなる。
 その場でものを言うのは、船員の数、そして個々の戦闘力のみだ。
「敵の船もキャラック船ですから、こちらと船員数は大差ないでしょう。船員の数で言えば、全ての船の合計では勝っているはずです。私達もそのかおるさんに習って乗り込むとしますか?」
「そう……だなあ。皆で一斉に敵船へと乗り込むのも面白いか……」
 会話している最中、一つの砲弾が”フォスベリー”の甲板を叩いた。
 小さな爆発が起きて、砕けた破片が辺りに飛び散る。
 今の攻撃で負傷したものはいなかったが、運が悪ければ死人が出てもおかしくはなかった。
 数人の船員達は攻撃を浴びた箇所の修理に当たっている。
 しかし治したその場所から破壊されていってしまっては、きりがない。
「船長! ここで止まっていては狙い撃ちにされてしまいやすぜ! 攻めるか退くか、指示を……」
 船員の声が、フェレットに選択を迫る。
 フェレットとて、何も考えずにその場に居た訳ではない。
 何とか冷静に状況を見極めようと、絶えず思考を働かせていた。
 さらに砲弾が一つ飛来し、それは船の帆を破壊した。
「……みんな、すまない。退いて、海軍の船と合流しよう。他の船にもそう伝えてくれ」
 フェレットがそう指示すると、船員達は掛け声をあげ、一斉にそれぞれの持ち場へと走って行った。
 数人の船員が素早く代えの帆を持って来、交換作業へと取りかかる。
(情けない)
 かおるさんが居たなら、戦局は好転した。
 彼が居ない、彼の乗る船がここに無いだけで、消極的な手段を取るしかなくなるとは。
「白兵戦に持ち込めば、強引に敵船を捕らえてしまえるかもしれませんよ。良いのですか?」
 ロッティーナが訊ねると、フェレットはこくりと頷いた。
「僕らが乗り込んでしまえば海軍からの援護は出来なくなる。それに、白兵戦になればこちらも無傷では済まないからな……。それなら、時間は掛かっても安全な手段を取ろうと思ったんだ」
「成る程」
 ロッティーナも頷きを返す。
 彼女は別に反論を述べてはいないが、フェレットは浮かない顔をしている。
「……すまないな、ロッティ。最初は攻めろって言っておきながら、敵船を前にしてびってて後退するなんて。指示が一貫してないなんて、船長として失格だ」
「船長?」
 フェレットの声から、何時もの様な明るい響きが失われていた。
 消え入りそうな声を聴いて、ロッティーナは驚き、船長の顔を覗き込む。
「今までかおるさんと一緒に、海事の仕事だってこなしてきた。だが思い返してみれば、全部かおるさんがいたからやれたことだったんだ。僕自身は別に戦略家でも、剣術家でもなんでもなかった。これがその証拠だ。殆ど素人みたいなもんじゃないか、まるで……」
「船長、そんな事は無いですわ」
 普段の毒舌も忘れてしまい、ロッティーナはフェレットのことを励まそうとする。
 だが、止まらない。
「君は元海軍なんだろう? 君からしたら、そもそも僕が船長を務めてること自体変な話で……君が指示を出した方が、ずっと上手くいくはずなのに」
 急に顔を覗かせた弱々しい男の像を、ロッティーナはどうするべきか、一瞬だけ迷った。
 たった一瞬だ。
 本来、むしろ扱いやすいと思っているのはこう言ったタイプであるのだから。
「確かにそうかもしれませんね」
 相手が後ろに下がろうとするのなら、それをさらに奥へと押し込むふりをしてみせる。
「私が指示を出していたとしたら、最初から海軍と共同で、無理をせずじっくり攻めたでしょう。それなら余計な被害も出さず、無難に敵を沈められたはずです。船長が余計な色を出して、かおるさんばりの活躍をしようだなんて言い出すから、こうして寸前で敵の強さを思い知る羽目になったんです」
「滅相もない」
 フェレットの声は殆どぼやき声となっていた。
「けど、私は副官です。船長である貴方に従い、必要であるなら助言する。それが出来なかった時点で私も同罪ですわ」
 背けがちになっていた船長の視線を、ロッティーナは声で強引に振り向かせた。
「それに、私はかおるさんと言う方がいなくなってから、この船団に加わりました。もしここに私じゃなくてかおるさんがいたとしたら、間違いなく戦況は有利になっていたのでしょうね。だとすれば、かおるさん程働くことが出来ない私に問題があると言うことです。船長は何も悪くは無いですわ」
「ロッティ、そんなことはない!」
「とにかく、貴方一人の責任ではないということです。船団の一員である以上、皆に同等の責任があるのですから」
「言わんとしていることはわかるけど。でも……」
 声を大きくして叫んだかと思えば、フェレットはまた神妙な顔つきに戻った。
「だから、船長」
「う、うん」
 ロッティーナはいきなりにこりとした。
 その笑顔自体は朗らかで心地の良い物だったが……何故だろうか、怖い。
 フェレットの思考を寸断してしまうほどの破壊力を持った笑顔。
「頼みますから……戦闘中にうじうじ悩み出すのだけは、おやめになって下さいね?」
「……二度といたしません」
 満面の笑顔から放たれた声は、まるで剣を手にしたかおるのような迫力を持っており、フェレットは船が後退していく最中、只管平謝りを繰り返した。

6

 嵐過ぎ去りし海は、再び平穏を取り戻した。
 穏やかな風に吹かれながら船団は海を行き、やがて目的の地へと到達した。
 イスタンブールはその町を訪れるまで、恐ろしいというイメージさえ抱いていたのだが、いざ到着してみると。
 青き空に見下ろされたその町はヨーロッパの諸国に比べると親しみやすくは無く、馴染んだ景色はそこにない。
 大きな丘の上に立つ巨大なアヤソフイア・モスクは、かつてキリスト教の聖堂だった建物を改造したもので、その神秘的な雰囲気もまた、聖堂から引きついたものなのだろうか。
 フェレット達は船から降り、即座に仲間達だけで集った。
 ゼルダ達ヴェネツィアの人々は出航所で色々と手続きがあるらしく、こちらのことはしばし放っておくつもりのようだ。
「アレクサンドリアも凄かったけど、ここも凄いですね。一面、モスクがたっくさん」
 きょろきょろとしているのは”コンスタンティア”の船長、リィ。
 その胸の辺りに、同じような仕草をしているレティシアの顔がある。
 そんな二人をアイは微笑ましげに見つめ、そしてフェレットは苦々しく眺めていた。
「素の格好のままでこうしてイスラムの街を眺められるなんて、素敵。アレクサンドリアの時は殆ど顔を覆い隠してて、ちゃんと見れなかったし」
「あれはあれで面白かったけど、この方がちゃんとした観光が出来そうね」
 リィの声に、ルーファもまた弾んだ調子で声を返すのだった。
 人生は長いと言えど、一生を海の上で過ごそうとするのなら、それでもまだ年月は足りない。
 果たしてこの街を今後、何回訪れることが出来るのだろうか?
 ……今回が最初で最後になるかもしれない。
 自分達は貴重な体験をしているのだと、彼らは自覚していた。
 一歩一歩イスラムの土を踏みしめて、その感触を確かめるようにしてそこにいる。
「フェレさん、どうしたんっすか?」
 普段なら先陣を切ってはしゃぎ回っているはずのフェレットは元気がない。
 心配というか、怪しく思ってパングが声をかけた。
「どうしたもこうしたもない。僕等はちゃんと依頼をこなすことが出来なかったんだぞ? 皆どうしてそんなに浮かれていられるんだ」
 今にも土に沈み込んでしまいそうなほど、暗い表情をしてフェレットは言った。
「でも、海賊達を追っ払うことは出来たんっすから……」
「それだって、最初は僕らがやろうとして、けど出来なくて……結局主に戦ったのはヴェネツィアの海軍だ。僕等は後方支援をしてただけ。ゼルダさんは僕等に期待してくれてたのに、大した役に立てなかったんだ。報酬を貰えないどころか、下手したら怒ってかおるさんの居場所を教えてくれなくなるかも……」
 怒涛の勢いでまくし立てられて、パングはそうっすねぇ……と同じように暗い顔になる。
 フェレットの表情が伝染したのは、しかし彼にだけだ。
 レティシアは訳がわからないと言った様子でぽかんと立っており、ルーファはいつもの通り、悠然とした態度でいる。
 アイとリィは、目を見合わせてくすくす笑っていた。
 フェレットの予想以上の落ち込みぶりが可笑しかったらしい。
「フェレさん……考え過ぎですよ。きっと」
「うん。そんなことより今はこのイスタンブールをじっくり見ておいたほうが良いと思うわ。フェレさんのことだもの、絶対後悔して喚きだすから」
 何でこの二人、こんなにのんびりしてるんだ?
 フェレットはそれが不思議でならず、かわるがわるリィとアイの顔を見ている。
 だってゼルダさんは元々、僕等が難しい海事の依頼をこなしたことを見込んで、僕等に今回の護衛を頼むことにしたんだろう。
 それなのにボスポラス海峡での戦いでは目立った活躍をすることが出来なかったばかりか、使節団と一緒に護衛される側に回る形になってしまった。
 失望されるだけの理由は十分揃っているだろうに。
「船長。人は一旦抱いた思いを、そんなに簡単に変えたりは出来ませんよ」
 その声は、アイともリィのものとも違った。
 後ろのほうで船長達の会話を聞いていた、ロッティーナの声だ。
「期待通りの働きが出来なかったくらいで失望してしまうくらいなら、最初からそんな簡単に期待も抱かないということです。人間の思いって、理屈だけじゃないですもの。……私より船長のほうが、よくご存知だと思いますけど」
「ロッティさんの言う通りだわ。フェレさんらしくもないわね、基本的に理屈嫌いの癖に」
 アイに言葉を連ねられて、フェレットは複雑な表情になった。
 もしや傷つけてしまったかとアイはフォローを入れようとするが、そう言う訳でもない。
(理屈に縛られてるからこそ、理屈嫌いを装いたくもなるんだよ)
 常識の概念、理屈、理論。
 そんな言葉は自分の書庫には存在しないと言わんばかりに、自由な生き方をしている男が一人、居た。
 自分がかつてその人間に惹かれ、行動を共にすることになったのも、そんな理由からなのかもしれない。
「あら、ゼルダさん達がこっちに来るようよ」
 アイの視線が指した先に、ヴェネツィア海軍の人間が数人居た。
 ようやく出航所での手続きを終え、ゼルダを先頭にこちらに歩いてくる。
「お待たせしたわね」
 数人の海軍兵の視線を浴びながら、会話が始まる。
「これから、使節団はオスマントルコの王の元まで赴くわ。引き続き、その護衛を頼めるかしら?」
「けど、僕等なんかで良いんですか?」
「勿論よ」
 ゼルダのその声には、一片の迷いもなかった。
「ヴェネツィア海軍と一緒にだから息が詰まるでしょうけど、それさえ済んだら夜にはパーティが催されるはずだから。楽しみにしていて」
「パーティ……イスタンブールで?」
 フェレットの瞳が、本能的に輝きを増した。
「ええ。トルコ料理を思う存分口にされると良いわ」
「トルコ料理! そりゃすごい、滅多に経験できることじゃないですね!」
「……実を言うと、私もそのパーティを何より楽しみにして、ここにいるのよ」
 ゼルダが小声で言うと、周囲の海兵達もまた相好を崩して笑うのだった。
「さて、それじゃ私達はもう少し手続きがあるから。フェレットさん達は良かったらもう少しこの辺りで待っていて貰えるかしら?」
「その手続きって、どんななんです? 僕等外部の人間が見てたりしたらまずいですかね? やっぱり」
 パーティ、という単語が聞こえた辺りから、フェレットの思考はただ”好奇心”という言葉のみで埋め尽くされてしまっている。
「構わないけれど、堅い話ばかりだから聞いていてもつまらないと思うわ」
「それでも良いですよ。たまには他国同士のやり取りってものも見てみたい」
 興味津々に食い付いてくるフェレットを見るゼルダの視線は、嬉しそうなものだった。
「じゃあ、フェレットさん一人でお願いね。さすがに大人数では行けないわ」
「解りました。それじゃリィ、アイさん達。ちょっと僕見学に行って来るんで、も少しこの辺りで待ってて貰えるかな」
「はいはい」
 子供の我侭を優しく聞き入れて上げるような、柔らかなアイの返事であった。
 嬉々とした様子でゼルダ達に付いて行き、出航所のほうへと向かうフェレットを、残された面々は生暖かい視線と微笑ましい視線半々で見守る。
「理屈ではどうとも出来ない、本能的な部分が顔を覗かせたわね」
 ちょこちょこと身を翻す姿は小動物のようだと、アイはまたくすくすと笑った。
「心配無さそうですね。元々、そこまで落ち込んでるって感じでもなかったけど」
「そうね。まああれ位ならしょっちゅうだし」
「あはは。その通りですね」
 フェレットの恋人と、半保護者の会話。
 しかし彼に関する話題は早々に打ち切られた。
「それより、私達ももう一頑張りしないと。このまま全く役に立てなかったら幾らなんでも申し訳無いし。それに」
「それに?」
 リィがきょとんとして疑問の声を投げた。
「頑張って、それで手に入れた情報でないとね。本当にそこにかおるさんがいるのか、不安になっちゃうから……」
「アイさん……」
 普段滅多にその顔を覗かせない、アイの弱気な部分。
 仲間を心配する時にだけ、陰からひっそりと顔を出す。
(仲間と言うより、フェレさんとかおるさんのことを思う時かしら。……それとも、かおるさんのことを思う時? なんて)
 リィは一人静かに、そんなことを考えるのであった。
 もしそうだったなら、なんと嬉しいことだろう。
 そうだったなら、みんなこのまま一緒にいられる。
 時が流れて――そう、海が果ててしまうまで、ずっと。
「アイさん。頑張りましょうね!」
 リィは両手で、アイの右手をぎゅうと握った。
 思わずアイが顔をしかめるほど、力が篭っている。
 さらにそれをぶんぶんと上下左右に振りまわすリィ。
「どっ、どうしたの? リィちゃん」
「どうしたもこうしたもないです! 思いっきり頑張って、かおるさんがそこにいるって言う百パーセント信じられる情報を手に入れるまで――頑張りましょうね? アイさん」
 頷くよりも返事するよりも前に、ただアイは”痛い”とだけ思っていた。

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  1. 2005/08/21(日) 05:18:31|
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第十五章 時は流れ出した(前編)

1

 Carnevale di Venezia――
 ヨーロッパで数多く行なわれている謝肉祭(カーニバル)とは、”断肉業”の前に肉をたらふく食べて大騒ぎする催しだ。
 だが、ヴェネツィアの謝肉祭は他の街とは一線を画す。
 豪華絢爛な衣装を身に付けた人々が色鮮やかに街並に溶け込み、幻想的な雰囲気を醸し出す祭。
 そしてそんな光景の中に、フェレットらもいた。
 きょろきょろと辺りを見回しながら、一行はずっと感嘆の声を漏らしっぱなしだ。
「ヴェネツィアとはまた別の国にいるみたいな、そんな感じがするわね」
 普段落ち付いているアイでさえも、興奮を隠し切れない様子だ。
「うん。でもこれこそがヴェネツィアの謝肉祭なんだって。ヴェネツィアならではの空間なんだよ、これも」
 フェレットがそう口にした。
 最近訪れた国を、たった一月で理解したなんて思ってはいない。
 ほら、今日もまた、町はこうやって新しい顔を覗かせている。
「不思議ね。涼しげな水の都なのに、こんなに熱気を帯びてる」
 これは確かに現実であるのに、ここにあるのは小さな夢の空間。
 鮮やかな身なりをしているだけでなく、仮面で顔を覆い隠しているものもいる。
 祭の間中、この街からは身分そのものの分別がなくなり、中には貴族が庶民の格好をしていたり、庶民が貴族に扮していたりもするのだ。
 普段厳密に存在する貧富の階級もまた、仮面で全て覆い隠してしまうようにして。
「フランチェスさんが言ってたんだけど、この数日間の祭の間中に、身分を越えて恋が芽生えることも有るんだそうだよ」
 フェレットが言うと、周囲にいた女性軍は皆「ロマンチック!」と声を大きくしてはしゃいだ。
 自分の手柄でもないのに、何故だか自慢げな顔になるフェレット。
「にしても、私達の格好のほうがむしろ普通に見えるわね。周りがこんなに派手だと」
 そう口にしたのはルーファである。
 彼女にしてもそうだが、船団はさすが各地を旅してきただけあって、服装も各国様々なものを纏っているのだ。
 リィが羽織っているモラは遥か西に位置する新大陸で編まれた手芸品であるし、他の面々にしても、ジェノヴァで購入した物だったり、倫敦で買った物だったりとそれぞれ違う。
 だがそんな彼らの格好が地味に見えてしまうほど、謝肉祭そのものがとにかく眩い趣きをしていた。
「まぁ、ごたくはその辺にしときましょうや。船長方」
 ぽそりと呟いたのはアイが船長を務める船”シャルトリューズ”の一船員。
「折角の謝肉祭ですぜ。普段以上に飲んで食べないと話になりやせんよ!」
 船長組が振り向いた先には、各船の船員達がそれぞれ、両手一杯に肉やら酒やらを抱えて待ち構えている。
「尤もな話だな」
 フェレットらは互いの顔をちらちらと見やった後、用意された宴会料理に食い付くのであった。
 香辛料を効かせた力強く濃厚な味わいが特徴のヴェネツィアの料理は、手軽に摘め腹持ちが良いため、こう言ったカーニバルの時にも好んで食べられるのだとか。
 今日ばっかりはかおるを探すと言う目的もすっかり忘れて、皆日が沈むまでどころか、数日後に謝肉祭が終わるまで、踊り狂い飲み倒す勢いだ。
 そしてそんな彼等を木陰から静かに眺める姿が一つ、あった。
 船員の誰もがそんなことを気にせずにいたものの、やがてリィがたまたま振り返った時に視線が絡み合い……いや、視線は互いの顔を目にしていたにも関わらず、絡み合いはしなかった。
 何故ならその木陰にいる人間もまた、顔に仮面をつけていたからだ。
(仲間に入りたいのかしら……?)
 姿も性別も掴めず、リィはあたふたとした。
 だが、相手の人間はこちらと視線があったことに気付くと、その場を後にしたようだ。
 何だったのかしら……と、誰もいなくなった木の辺りをまだ眺めているリィ。
(船員の誰かに恋をしたとか……なんてことは無いわよね、きっと。ああ、そうだ! 恋と言えば!)
「パングさん!」
「なんっすか?」
 再び振り返りざま、少年を呼びかける。
「エレオノーラさんとはどうなったんですか? その後」
 実は前々から気になっていて、けれど訊ねられずにいた。
 元々あまり話す方では無いからと理由だったが、今は酒が入っているせいもあり。
「ええと……いや、もう終わった話っすよ……。終わると言うか、そもそも始まりもしなかったんっすけどね……」
(……終わったんだ)
 リィだけじゃなく、こっそり聞き耳を立てていた面々も皆、一斉に言葉を失うのであった。
「まあ、やっぱり異国の人との恋愛は難しいかなと……。そんな訳っす」
「そうなんだ……。ごめんなさい」
「謝らないで下さいっす、リィさん。余計惨めな気分になるっすから……」
「そうですよね、ごめんなさい……あ!」
(パング、哀れな奴……)
 一行はまた、無言でそのやり取りを見つめているだけだった。

 楽しい時は、あっという間に過ぎていく。
 夜中になってもまだ町は色彩鮮やかで、人影も消えはしなかったが、フェレットら船団の面々は既に半数が船や宿屋へと戻り、ゆっくりとした時間を過ごしていた。
 酒に強い何人かの面々は未だ町中で催されている宴会の輪の中にいるようだが、それは船員のごく一部だ。
 フェレットもまた宿に戻ってきていて、独りベッドに横たわりながら、意識をゆらゆらとさせていた。
 時刻も遅いのに何故だか中途半端に目が冴えていて、視線はずっと天井を見上げている。
(もしここでも何の手がかりも得られなかったら……次は何処へ行けば良いんだ?)
 誰の声も聞くことなく過ごす夜。
 次第に、脳裏に過ぎる思いにも闇色が交じっていく。
 だが、こんな夜は何も初めてのことではない。
(リィはどうしてるかな)
 たとえ寝るのが遅くなろうとも、どうせ明日もまた謝肉祭に参加して一日を過ごすのだ。
 明日も、明後日も。
 フェレットは再びベッドから起き出して、部屋から抜け出していった。
 だが何処かに移動するよりも先に、部屋の直ぐ外に見知った人間の姿を見つけたのだ。
 鮮やかな金色の髪をしたその少女の姿――今や誰よりも馴染みの深い姿がそこにはあった。
「リィ、どうした?」
 フェレットは静かに訪ねたが、返ってきた声は少し慌しい調子。
「それが、その……ヴェネツィア海軍を名乗る方が、今この宿を訪ねて来られて……」
「ヴェネツィア海軍」
 彼女が口にした単語を、小声で繰り返す。
「……ヴェネツィア海軍だって?」
 そしてもう一度、大きな声で再びそれを口にするのだった。
「それで、僕等に用事が有るって言ってるのか?」
「はい」
「そうか」
 フェレットは一歩後ずさった。
 自分達が一体何をしでかしたのかと、思考を巡らせてみる。
「そうか、ついに僕らの悪事がバレてしまったのか……」
「……何がですか?」
「いや、冗談だ。僕等が海軍に呼ばれる理由なんて無いと思うが」
 アレクサンドリアでの一件にしても、まさかヴェネツィアに知られているはずはない。
「そうそう、用事があるのは船団にじゃなくて、フェレさんとアイさんにだそうです」
「へ?」
 それこそ一体どう言う風の吹き回しだろうか。
 そもそも何故、ヴェネツィアの海軍に自分達の名前が伝わっているのだろうか。
 アイは既に宿の外で応対しているとのこと。
 眠気も完全に消え失せてしまい、フェレットはリィに連れられて外へと向かった。
 宿屋を出るや否や、そこにはまず一つ、見知った仲間の姿がある。
「アイさん……」
 そしてもう一つの影。
 海軍と言うから、てっきり物騒な身なりの男数人が、横柄な態度でやって来ているのかと思った。
 しかしそこにある人影はアイと同じほどに細身で、華奢なものであった。
 背丈はフェレットよりも少し大きく、遠目には男性に映ったが、違う。
「フェレットさんね」
 届いてきた声は堂々としていたが、隠すことの出来ない線の細さもそこには感じられた。
「こんばんは」
 フェレットは丁寧とも無作法ともつかない挨拶をし、その姿をもう一度間近で見やった。
 すらりと伸びたその姿、確かに女性のものだ。
 肩まで伸びた長い黒髪は綺麗に手入れをされており、銀色の輝きを帯びている。
 しかしその身に纏ったコルセアコートが、彼女の華奢な体躯を覆い隠していた。
「ようこそ、ヴェネツィアまで。私の名前はゼルダと申しますわ」
 女性は丁寧に礼をし、その視線をフェレットの方へと向けた。
「あなたが、海軍の方……?」
「中尉を務めさせてもらってるわ」
 にしては若い、とフェレットは思った。
 外見から判断した限りではまだ、二十代半ばと言った辺りだろう。
「中尉様が一体、こんなしがない冒険者に何の御用で?」
 フェレットが物怖じせずに言うと、ゼルダは静かに微笑むのだった。
「そうね。もし良かったら、これから私の家まで来て頂けないかしら?」
「真夜中ですよ、もう」
 あまりに唐突で、さすがのフェレットもあまり好意的な言葉を口には出来なかった。
「無礼は承知してるわ……けれど、もし付いて来て貰えるなら…私の話を聞いて貰えるなら、それは間違いなく、貴方達にとっても有意義な時間になると約束出来るわ」
 半信半疑と言うより、現時点ではまだ疑うことしか浮かばない。
 どうするべきかと、フェレットはアイのほうに視線を向けた。
「ここで話すのは難しいのでしょうか? 内容を全く知らずに付いて行くことはちょっと、難しいですわ」
 アイがそう言い、フェレットも頷きを加える。
「話せなくはないわ。ただどうせなら、こちらとしてもちゃんとした応対をさせて頂きたいの。いきなり訊ねて用件だけ言って帰るなんて、礼儀知らずも甚だしいことですから」
 ゼルダもまた、フェレット達が明らかに疑っていることには気付いている。
 だから、彼らが絶対に食い付くであろう餌をそこに用意した。
「貴方達はこの町で”かおる”と言う人物のことを探し回っているそうね」
 その名前を出されただけで、フェレットらに表情が一瞬にして、より真剣なものへと変わる。
「もしかして行方を知っているとでも?」
「知っている、と言ったら付いて来て貰えるのかしら?」
 問い返されて、二人は返す言葉をなくした。
 もしそれが真実なら、喜んで付いて行くだろう。
 言われるがままにどんなことでもするだろう。
 けれど、今のところはその確証がない。
「いきなりこんなことを言われて、貴方達が私を疑うのは仕方無いと思っているわ。けれど、私は何も貴方達を騙そうとしているわけじゃない。それだけは信じて」
ゼルダは言うと、二人に向かってもう一度頭を下げた。
 それでもまだ、フェレットはどう返事をしていいか迷っていた。
 海軍と言われればとにかくお堅いイメージが付き纏うのだが、この女性は中々に誠実で、柔らかい物腰をしている。
 口調もけして上から見下すような感じではなく、対等の立場で話そうとしているのが見て取れた。
「……行こうか? アイさん」
「そうね」
 まさかいきなりひっ捕らえられて斬首される、なんてことはないだろう。
 何故この二人だけを招くのか気になりはしたものの、彼女自身を疑う気持ちは大分薄くなっていた。
「リィはこのことを皆に伝えてもらえるか? 帰りはそんなに遅くならないと思うけど」
「はい」
 そして半信半疑でありつつも元々好奇心旺盛なフェレットだ。
 ヴェネツィアの人間とこうして関わりを持てることを楽しいと思う気持ちも、同時に浮かんでいた。

2

 街の中心地にはたくさんの豪邸が立ち並んでおり、その白亜の光景の中にゼルダの邸宅も存在していた。
 邸宅の周囲には草花が植えられており、ブロンズや石のオブジェも配置されている。
 夜の闇さえも照らし出すほどの華やかな外観に、フェレットとアイの二人は一瞬にして魅入られた。
 やがて室内へと招かれても、二人はまだ何処か躊躇いがちであった。
 一室へと通されて、きょろきょろとしながら二人は椅子に座っている。
 興味津々に部屋の隅々までを舐めまわすように見ているフェレット達は、どう見ても田舎者そのもの。
 アイはともかくとしても、フェレットはかなりあからさまだ。
(なんか、フェレさんが元々貴族だったって話も疑わしく思えるわね。こう言うのを見てると……)
 さすがのアイも若干引き気味で、そんな感想を抱くのだった。
「ふふ、そんなに気になるかしら?」
 ゼルダはくすくすと笑いながら言った。
「そりゃ気になります。こんな豪邸に独りで住んでらっしゃるんですか」
 何時の間にか、フェレットの顔は全て、好奇心という言葉だけで覆い尽されている。
「ええ、そうよ」
「使用人とか、執事も雇わずに……?」
 独身なんですか、と言う言葉を引っ込めて、フェレットは代わりにそう訊ねた。
「さすがに管理しきれないから定期的に来て貰ってるけれど、基本的には独りね」
 そう聞かされて、益々この女性のイメージが謎めいたものへと変わって行く。
「別にこの邸宅にしても、私が何かしたと言う訳ではないの。親から継いだものだからね」
 私自身は何も偉くは無いわ、と自嘲めいた声で最後にそう、付け加えた。
「そんなこと……」
 両親はもう、いないのだろうか。
 そうぽつりと浮かべたけれど、わざわざ訊ねはしない。
「お腹の具合はどうかしら? 大したおもてなしは出来ないけれど」
「大丈夫です。もう時間も遅いですし」
 アイが即座にそう、丁寧に応対をした。
 特に彼女はさっきまで祭で飲み食いをしていたのだから、当然と言えば当然だ。
「そうね……まずは用件だけさっさと話すとするわ。その方が貴方達にとっても都合が良いでしょう」
 別にそうでもないけど、とフェレットは思った。
 どうせここまで来たのだから、もっと堪能してから帰りたい気持ちもある。
 ……そんなこと、口には出来ないが。
 さて一息をついて、ようやく話は本題へと移る。
「貴方達に頼みたいことと言うのはね」
「ええ」
「実は、今度ヴェネツィアがオスマントルコへと派遣する使節団の護衛を、貴方達にお願いしたいの」
「えっ!」
 フェレットとアイの二人がほぼ同時に声を上げた。
 無理だ、と言うよりも浮かんだ疑問はそれ以前のことだ。
「国同士の外交に関わるなんて、考えられない話です。僕はイスパニア出身だし、アイさんはイングランド人なのに」
「外交そのものに関われとは言わないわ。ただ、オスマントルコの首都であるイスタンブールに着くまでの、その道のりさえ無事に果たせれば良いの。それに見合う額の報酬を用意させて貰うわ」
 ゼルダは朗々として依頼の説明をした。
 しかしこれだけでは合点がいくわけもない。
「ゼルダさん」
 まず一つ、はっきりさせなければならないことがある。
 アイはしっかりとした声で彼女に訊ねた。
「何故、私達なのです?」
 ゼルダはフェレットとアイだけをわざわざ指定して、ここに招き寄せたのだ。
 護衛の依頼に向いている人間は、船団には他にもいる。
 海賊に襲われたことを考えるにしても、パング等の方が戦闘技術に関しても優れているはずだ。
「貴方達しか知らなかったから、かしらね。依頼は勿論、貴方達の仲間を連れて来ても構わないわ」
「知らなかった?」
「ええ。正確には貴方達とあともう一人だけ、元々名前を知っていたの」
「……かおるさんですか」
 フェレットは殆ど反射的にそう口にした。
 自分とアイの名前が出て、後一人と言ったら他に誰の名前が思い付くと言うのだ。
「その通りよ」
 ゼルダは言うと静かに笑んだ。
 照れ笑いをしているかのように、フェレットには映った。
「何故知っているか、今は訊かないで貰えるかしら。まだ、貴方達が私の頼みを受けてくれるか分からないから。親しくなれるかも分からないのに、あまり自分のことをぺらぺら話すのは変な話でしょう?」
「確かに言われてみれば」
 フェレットは呟いた後、うーんと声を出して唸るのだった。
 そう言われてしまっては無理に追求は出来ないけれど……気になる。
 以前、まだかおるさんと一緒に航海をしていた時に会ったことがあるとか、そんな所だろうか。
「ヴェネツィアでそのお仲間さんを探しているところを見ると、どうやらまだろくな手掛りを掴めてないようだけど? それならきっと、私から得られる情報は有益なものになるはずよ」
 確かにゼルダの推測の通り、ろくな手掛りどころか、未だに一つとして有益な情報を得られてはいない。
「その情報は、百パーセント確かな情報なんですか?」
「百……とは言い切れないわね」
「かおるさんを何処かで見かけたとか?」
「ええ」
「先にその情報を教えて貰うとかは、駄目ですかね? その情報が確かなものだったら、改めて協力するってのは」
「それは虫が良過ぎるわね」
「……ですよね」
 フェレットはたははと笑った。
 ゼルダの声に、尖ったものは感じない。
「使節団は今から十日後に派遣される。それまでに結論を出してくれれば良いわ」
 ゼルダの邸宅を訪れてから、三十分ほどが経った。
 部屋に着いてから直ぐに話し出して、今のところはそれだけだ。
「もう今日はこの話は止めにしましょう。折角来て頂いたんだもの、依頼の話だけで終わりなんてつまらないわ」
 こほんと咳をつくと、ゼルダは椅子から立ち上がった。
「二人共、お時間は大丈夫かしら?」
「ゼルダさんさえ良ければ。船乗りには時間なんて、有って無いようなもんですから」
 フェレットは何故か得意げな調子で言った。
「それはフェレさんだけ、或いは謝肉祭の間だけでしょう。少なくとも私は、普段はそんな事は無いわよ」
 アイにたしなめられて、その調子に乗った顔も萎んでしまう。
 しかし直ぐに反撃の言葉を思いついて。
「アイさんもそれじゃあ、謝肉祭の間に限っては時間を気にしないってことだね」
「……そうなるのかしら」
「アイさんも構わないそうです。ゼルダさん」
 そのやり取りは、普段と何ら変わらない船団の光景だ。
 その会話を聞いただけで、ゼルダは何とも楽しそうに微笑を浮かべていた。
 彼女は心から嬉しそうに笑っていたのだ。
 フェレット達はそこまでは理解出来ずに、ただ照れ臭そうにするだけだったが、
(悪い人じゃなさそうだな、この人は)
 そんな感想を抱いてもいた。
 人間は表裏一体の生き物であるし、これだけで判断する事は必ずしも正しくは無いけれど。
 言わば船乗りとしての直感だろうか。
 この女性には刃の煌きよりも、海の香りのほうがよく似合うのではないかとも思った。
 ゼルダは自宅にあるワイン蔵から秘蔵のワインを取り出してきて、結局この後、彼等は朝まで語り合うことになる。

3

 謝肉祭が続く中、ヴェネツィアの港には静かに、しかし荘厳な雰囲気をした船団が停まっていた。
 それは僅か二日で造られたもので、これからイスタンブールへと向かって移動する、海の要塞である。
 整って並んでいる船には十分な武装もされており、その眺めは壮観であった。
「ヴェネツィア海軍も立派なもんだな。こりゃ迂闊に戦争なんか起こせないぞ」
 少し遠くからその光景を見つめて、フェレットはそんなことを呟いていた。
「物騒なこと言わないの」
 隣にいるアイが、何時ものように彼をたしなめる。
「それに、これから私達の船もあの要塞の一部となるんだから」
「うん」
 結論が出るまでに、そう長い時間は掛からなかった。
 今回、使節団護衛の為の一団を率いている海軍提督ゼルダ。
 この間彼女の家で過ごした一夜で、彼女が誠実な人柄をしていることは理解できた。
 彼女の力になってあげたいと言う気持ちもあったが、やはり何よりも。
「かおるさん、本当に居るのかな。ゼルダさんが知っているってことは……やっぱり東地中海に居たんだろうか?」
「さあ? 大体、どうしてゼルダさんがかおるさんを知ってるのかも、まだ判らないわ」
 アイが言う。
 そしてまた、物思いに耽る二人。
 少し背後では、相変わらずの狂騒景色が展開されているのに。
「かおるさんだけじゃなく、僕とアイさんのことも知ってたからなあ。……以前何処かで会った事があるとか、そんななのかな」
 ワインを飲みながら彼女と話した時も、上手くかわされて、とうとう教えては貰えなかったのだ。
「不思議な人ね。ゼルダさんは」
「うん……。信用して良い人だとは思うけど」
 詳しい事を話してくれないのは、理由が有るからなのだろうか。
「とにかく、これで一歩前進したって訳だ。依頼も馬車馬のようにこなして、速攻で終わらせてやるさ」
 ”目的のない旅”と銘打たれた航海。
 けれど時を経て、仲間を失い。
 今までのようにぶらぶらと海を行くことが、何時しか苦痛に感じるようになっていた。
 この痛み、何れ消えて無くなるだろう。
 かおるさんを見つけ出して、そしてまた今までと同じように海を見よう。
 海の先に求めるのは”自由”で、他には何もいらない。
 また、そんな旅へと赴こう。
「よーし、アイさん!」
「……何?」
 背後の喧騒に負けじと、フェレットはいきなり怒鳴り声のような叫びを上げた。
 殆ど反射的に、一歩そこから距離を取るアイ。
「あと少し、頑張りましょう! ラッシャアオラァ!」
 気合と共に吐かれた声を聞き、アイはさらに一歩後ずさった。
「ほら!」
 気付けばフェレットは右手を差し出して固まっている。
「あのね……」
 固まったのはアイも同じだ。
 固まったままで、物思いに耽っている。
 そこに右手を乗せて……同じように声を上げろと?
 ――ほら、かおるさん。
 あなたがいないせいで、こんな役回りが私のところに回ってくるんだから。
 早く帰って来てよ。
 貴方が座っていた椅子は、絶対誰が座ったってしっくりこないんだから。
「……アイさん!」
 アイが普段、こんな事をしないのはフェレットだって知っている。
 殆どノリで口にしたまでは良かったが、食いつきの悪さにフェレットは少し困った顔になっていた。
 その様子を見るに見かねて。
「ッシャァオラァ」
 小さな手がフェレットの右手に触れて、そんな可愛らしい叫びが響いた。
 一瞬だけ「まさか?」と驚愕するフェレット。
 その手の温もりはしかし、フェレットもよく知っているものだ。
 アイの手ではない。
「……リィ」
 さっきまでに此処には居なかった少女の姿を、二人ともぼんやりとして見やる。
「フェレさん、アイさんもっ」
 リィは再び、フェレットの右手をがしりと握った。
 そのまま自分の顔のほうへと引き寄せる。
 左手ではアイの手を同じように握って、そしてまた引き寄せて。
 三つの手を、顔の前で合わせた。
「今度こそ、絶対にかおるさんを見つけましょうね。それでまた、今まで通りに元気になって下さい! 二人とも!」
 リィの口調はふらふらとしていて、よく見ればその顔色も夕陽のように紅くなっている。
 船団は今、出発する前の最後の謝肉祭を楽しんでいる最中なのだ。
 酔っ払っているのだろう。
「元気になるって、僕等がか……?」
 リィはこくりと頷く。
「単にかおるさんが居ないから……かおるさんと元気に喋ってる二人の姿が見られなかったからかもしれないけど。二人とも……特にここ最近、元気が無かったように思えました」
「そうかしら。……リィちゃんがそう言うのなら、そうだったかもしれないわね」
 フェレットとアイは互いの顔を見た。
「私も精一杯、御手伝いします。ずっとお二人にお世話になってるんですもの。少しくらいお返ししないと」
「今更お返しも何もあるかよ、リィ」
 フェレットは優しく笑いかけ、彼女の手を少しだけ強く握った。
「貸し借りがどうのなんて仲でも無いだろう? 僕等は」
 たったそれだけの言葉で、リィは頬をさらに赤くする。
「北海での戦いの時は僕も散々怖がったけどさ。今はそんな気分じゃないんだ。あの時と同じ位の海賊と戦うことになっても、楽勝で倒せちゃう気がするね」
 それもまた、少量だが口にしているアルコールのせいもあるだろう。
「かおるさんは居ないけど、その代わりに色々と、頼りになる仲間が増えたからね。パング君は元より、脅迫が得意な某女商人も自分の船で付いて来てくれてるんだし。それに”シャルトリューズ”にはあの時には無かった、船長のやる気もとい船の速度を十二分に出させる、小さくて可愛らしい帆が装着されたことだし」
「帆……ってもしかして、レティシアちゃんのことかしら……?」
 アイの問いに、フェレットは答えない。
 そのまま言葉を続けた。
「”コンスタンティア”だって今はあるし、それに”フォスベリー”にも、頼りになる副官が乗ってくれたことだし。…ちょっと怒りっぽいけど」
 かおるがいた時とは明らかに違う、船団の姿。
 あの時理想だと信じていた姿とは、大分違ったものになってしまったけれど。
 今のこの船団の姿が限りなく最高に近いものなのだと、今またフェレットは信じることが出来ていた。
 そしてここにあと一人、加わったなら――。
「もしかして、脅迫が得意な某女商人って私の事じゃないわよね? フェレさん」
 ぎくり。
 たった一声届いて来ただけで、フェレットは全身を震わせた。
「ははは。二人が話してるのに気付いてたの、私だけじゃないんですよ」
 リィの声を聞いて、笑い事じゃない、とフェレットは思う。
 背後から、幾つもの殺気が迫ってきていると言うのに。
 振り向いて、まず最初に視線へと飛び込んできたのは……倫敦の商会”Bar like a child”の商人、ルーファ。
 彼女は至って平然とした表情をしていて、それが逆に恐ろしい。
 そして彼女の左右にはパング、レティシアの二人。
 さらにその後ろにはロッティーナ、グラフコス、リズウィーと言った副官組が続いている。
「船長! 誰が怒りっぽいって言うんですかっ!」
 ロッティーナの怒鳴り声。
 こちらはあからさまに怒っている。
 ――なんと愛すべき仲間達、愛すべき光景なのだろうか。
 彼等はいつだって、そんな風に思わせてくれるのだ。
「よし、じゃあ折角皆揃った所でもう一度やるとしようか! みんな右手だけを前に出して、せーのでラッシャアオラァと大声で……」
「釣られないわよ!」
 二人の女性の声が重なって響く。
 ルーファとロッティーナの右手は、フェレットの頬に向かって差し出された。
 風を切り、ばちん、ばちんという大きな音が空へと吸い込まれる。
 衝撃でフェレットはよろめいたが、男の意地を見せて、辛うじてそこに踏み止まった。
「こら、何てことするんだ! 折角、感動的な台詞を口にしてたのに!」
「ふーん? こっちにはそんな感動的な台詞は一言たりとも響いて来なかったわよ」
 目の前にあるルーファの顔は怒りの形相のまま。
 おでこの辺りには青筋が浮かんでいる。
 このままではまずいと思って、フェレットは口から出そうになっていた過激な言葉を、全て飲み込んだ。
「……すいませんでした」
「わかればいいの」
 まだその場に残っているやり切れない思いを、なんとか空へと葬り去るフェレット。
 両頬に残された紅の傷跡が、じんじんと響いて切ないが。
「……もっかいしません? ラッシャアオラァってやつ」
 小声でぽつりと言うと、他の面々はそれぞれの顔を見渡すのだった。
 そうして、躊躇いがちに右手を差し出そうとする。
 まずパング、レティシア、それに他の面々が遅れて。
「よーしそれじゃあ! ラッシャァオラァ!」
「……ッァオラァ」
 人数の割にはやけに小さな、気合を入れる声が空へと吸い込まれていった。

 そんな奇妙と言っても良い喧騒を、木陰から眺める影が一つ。
 何時かの様に、仮面を被ってはいない。
 銀の光を帯びた美しい黒髪が、穏やかな風を強請るようにして靡く。
 鋭い眼光を持ったその瞳は、一行のほうをただ見つめていた。
(変わってないわね、あの時と)
 かつて目にした光景――記憶の中に映るのは一人の夢多き少年と、不気味な雰囲気をした男、そんな二人を穏やかな空気で包み込む淑女……その三人。
(彼らはあの時のままでいてくれた。良かった)
 自身の眼差しに羨望の色が混じるのを抑えられずに、彼女はそこにいた。



  1. 2005/08/08(月) 16:25:59|
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フェレット(或いはスネばな)

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